幻水ニーベルング・第三話
 

文字色は…

ほぼオペラ原作通り
原作から逸れている
銀丸のツッコミ

となっております。

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 ジョウイのいなくなった岩山の、二人で暮らしていた岩室で、ユーナクリフはひとり彼の帰りを待っておりました。
 始めのうちは自分の寝ている間に出て行ったジョウイに対して猛烈に怒っていたユーナクリフでしたが、彼の帰りが遅いので、今では無事に戻ってくることを願うばかりです。
 そこへ馬のいななきと蹄の音が聞こえてきました。不思議に思って岩室から出てみると、馬を飛ばしてやってくるマイクロトフ(ヴァルトラウテ)の姿がありました。
 懐かしい兄弟との再会にユーナクリフは喜びました。しかしマイクロトフの表情は固く、彼は神々の窮地を告げに来たのでした。

マイクロトフ:「聞いてください、ユーナクリフ殿。神々の世には終わりが近づいているのです。それは貴方の持っているその紋章の呪いによるもの。ユーナクリフ殿、どうかその黒き刃の紋章を手放してください!」
ユーナクリフ:「そんな、何を言っているんですか!?これはジョウイが僕にくれた愛の形見なんですよ!」
マイクロトフ:「分かっています、しかしワルハラを救うには……それをラインの波間に投じ、ラインの乙女達に返すしかないのです」

 ユーナクリフは紋章を押さえ、激しく拒みました。

ユーナクリフ:「今、僕がこの紋章を手放すことは、ジョウイとの愛を手放すのと同じことなんです!」
マイクロトフ:「ユーナクリフ殿……しかし俺は騎士の務めとして、その紋章を持ち帰らなくてはならないのです
ユーナクリフ:「ワルハラに呪いが及んだのは神々の欲が犯した罪のためじゃないか!神々の栄華よりも、僕にとって大切なのはこの紋章なんだ!」

 戦乙女は騎士とは違うんだけどなぁ……。
 ジョウイに負けず劣らず生真面目で正義感の強いマイクロトフはたじろぎました。

ユーナクリフ:「神性も神々の知識も失ってしまった僕には、もうジョウイしかいないんだ……その彼もここにはいない今、僕が持っているのは、彼の愛の証であるこの紋章だけ……」
マイクロトフ:「う……」
ユーナクリフ:「僕は彼を信じたい……この紋章だけが頼りなのに……」
マイクロトフ:「あ……」
ユーナクリフ:「……でも、そうですよね……騎士の誓いの前には、僕たちの愛の誓いなんてちっぽけなものなんですね……」
マイクロトフ:「お、俺は……」

 マイクロトフ、拳を握り締めて震えています。ユーナクリフは彼を鋭く見据え、トンファーを構えました。

ユーナクリフ:「この愛の証を守ると僕は彼に約束したんです。どうしてもというのなら、僕と戦ってください。そして僕を倒したなら、ジョウイに僕が決して紋章を手放そうとしなかったと伝えてください。さあ―――」
マイクロトフ:「俺は……俺はどうすればいいんだぁぁぁぁぁ!!(泣きダッシュ)」
ユーナクリフ:「あれ、マイクロトフさん?……行っちゃった。なんだったんだろ」

 この場合、いちばん気の毒なのは誰なんだろう……。
 ユーナクリフは落ち着きを取り戻し、あたりを見回しました。空には夕闇が迫り、谷底の炎は一段と輝きを増しています。炎の中にジョウイの角笛を聞いた気がして、ユーナクリフはそちらへと向かいました。
 その頃、ジョウイはかくれ頭巾を被ってルカの姿に変身すると、再び炎の中に足を踏み入れました。すると炎の勢いはたちまち衰え、ジョウイとユーナクリフの間を遮るものは何もなくなりました。

ルカ(ジョウイ):「お前がユーナクリフだな!さあ、逆らわずに俺の妻になるのだ!」

 ユーナクリフに関する記憶を失っているジョウイは、ルカの声で高らかに宣言しました。
 しかし、それに対する反応は冷ややかでした。

ユーナクリフ:「……ジョウイ、なにやってんの?」
ルカ(ジョウイ):「なっ!?ぼ……お、俺はジョウイではない!ルカだ!!」
ユーナクリフ:「……なんだかよくわからないけど、まあ折角帰ってきたんだし。ご飯にする?お風呂にする?」
ルカ(ジョウイ):「(うぅっ滅多にないオイシイ状況なのに……)俺はジョウイではないと言っているだろう!大体なんでそんなこと分かるんだ!?」
ユーナクリフ:「そりゃあ、その瞳を見ればすぐにわかるさ。これってだよね」
ルカ(ジョウイ):「陶酔していないで俺様の言うことを聞け!」

 ルカの姿のまま顔を真っ赤にして否定するジョウイを、ユーナクリフはじとっと見つめました。

ユーナクリフ:「ジョウイ、他人になりすまして強姦プレイだなんて……」
ルカ(ジョウイ):「ちっ違……!!」
ユーナクリフ:「君って結構潔癖な人だと思っていたのに、意外と趣味悪かったんだね」
ルカ(ジョウイ):「う……うわあぁぁぁぁぁぁぁん!!(泣きダッシュ)」
ユーナクリフ:「あ、泣かせちゃった」

 おーい……(汗)
 ユーナクリフはさすがに言い過ぎたと反省して(そういう問題でもないと思うが……)よしよしとジョウイをなだめました。

ユーナクリフ:「大丈夫だよ、ジョウイ。君にどんな性癖があっても僕の愛は変わらないよ」
ジョウイ:「……君って本当に容赦のない人だよね……(泣)」
ユーナクリフ:「ほら、この紋章だってちゃんと守ったよ。これがある限り僕の貞節は守られているんだ」

 つまり、紋章を奪えば彼はルカのものになるのです。
 ルカの姿を保ったまま、ジョウイはユーナクリフから紋章を取り上げました。しかしジョウイの企みも知らず、彼が帰ってきたことに喜んでいる(そうよ!喜んでいるのよ一応!)ユーナクリフは、疑いもせずに大人しくされるがままになっていました。

ルカ(ジョウイ):「今こそお前は俺のものになるのだ!さあ、ついて来るがいい」
ユーナクリフ:「じゃあ今度は一緒に連れてってくれるんだね!」
ルカ(ジョウイ):「…………えーと……(汗)」

 ユーナクリフは大喜びでジョウイに抱きつきました。これからどんな悲劇が待ち受けているかも知らずに……。
 ……って、すみません、今回ちっとも原作どおりになりませんでした(泣)
 


 

第四話に続く。