幻水ニーベルング・第二話
 

文字色は…

ほぼオペラ原作通り
原作から逸れている
銀丸のツッコミ

となっております。

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 さて、炎の岩山で幸せな新婚生活を送っていた二人ですが、そのままでいるわけにもいきません。なぜなら身を養わなくてはならなかったからです。
 ジョウイは外の世界に出て稼いでこようと思いました。
 ところがそう話すとユーナクリフは「僕も行く!!」と言い出しました。

ユーナクリフ:「こんなところでひとりで待ってるなんて冗談じゃない。君のことだからきっとどこかで妙なことに関わって、僕のことなんて忘れてしまうに決まってるんだ……」
ジョウイ:「何言ってるんだい、そんなことあるわけないよ!」

 彼はジョウイがバカがつくほど生真面目で、思い詰めてしまう人間であることをよ〜く知っていましたから、心配するのも無理のないことでした。
 ジョウイは困って、自分の手にある紋章に目を留めました。

ジョウイ:「そうだユノ、君にこの紋章をあげるよ。これがある限り、僕と君は繋がっているんだ。僕の聖なる貞節の証として、君にこの紋章を守ってほしい」
ユーナクリフ:「ジョウイ……ありがとう、大切にするよ!誰にも渡したりするもんか」
ジョウイ:「じゃあ……」
ユーナクリフ:「それとこれとは話が別。外界にはついていくからね」
ジョウイ:「(がっくり)ユノ……外は危険が多いんだよ。僕は君を危ない目に遭わせたくないんだ。頼むからおとなしく待っていてくれよ」

 ユーナクリフはよっぽどこの頭の固い恋人を殴ってやろうかと思いましたが、ぐっとこらえました。後から思えば、このとき殴っておけば良かったのかもしれません……。

ユーナクリフ:「とにかく、危険が多いって言うんなら、余計に僕が一緒に行ってジョウイを守るからね!」
ジョウイ:「おいおい……(汗)」

 どんなに言い聞かせてもユーナクリフは強硬です。ジョウイは仕方がないので彼が眠っている隙にこっそりと抜け出しました。
 ラインの川岸を歩くジョウイは、高く上った太陽を見てひとり残してきた恋人を思いました。

ジョウイ:「ごめんよユノ……大丈夫だろうか、泣いてなきゃいいけど」
トリスラント:「泣いてはいないけど激怒していたね」
ジョウイ:「うわぁっ!?ど、どうしてここに!!」
トリスラント:「ジョウイについていってくれって頼まれたんだよ。ま、お目付け役みたいなもんだね」
グレミオ:「坊ちゃんが行くのなら、当然私もついていきますよ!!」
ジョウイ:「……僕は正しい道を選び取れるのだろうか……」
トリスラント:「そりゃあ不安だ。大いに」
ジョウイ:「…………」

 ところは変わって、ここはギービヒ家(ギビフンク族)の館です。竜に打ち勝ち、ニーベルングの財宝を手に入れたジョウイの勇名はこの館にまで届いておりました。館にはギービヒ家のルカ(グンター)やジル(グートルーネ)の他、彼らとは同母であるアルベリヒの息子アガレス(ハーゲン)が住まっており、アガレスは紋章を狙ってジョウイを陥れるための陰謀を練っていました。
 館の傍にはライン川が流れており、その流れに逆らって一艘の舟が登ってきます。

アガレス:「おーい、そこの威勢のいいのはどこへゆくのだ?」
ジョウイ:「音に聞こえたギービヒの御曹司にお会いしようと思っています」

 ……なんかバカ丁寧なジークフリートになりそう……。
 アガレスはそこに舟をつけるように言い、ジョウイを館に招き入れました。

ジョウイ:「どなたがギービヒ殿のご子息ですか?」
ルカ:「ふはははははは!!それは俺様だ!!!!」
ジョウイ:「……(英雄のくせに思いっきり気圧されている)あ、貴方の盛名は……この流域の至る所で耳にしております……」
ルカ:「ふん、友誼を結びに来たのか?くだらんな。まあいい、おまえは面白そうなヤツだからな。ヒマつぶしに結んでやろう」

 筋は間違っていない……ケド……(汗)ルカ様に凡庸な王様の役なんか務まるわけないよなぁ……。

アガレス:「……か、歓迎しますぞ」
ジョウイ:「……あ、ありがとうございます……。ところで僕の馬……は、どうすれば」
アガレス:「おお、それはわしが世話しよう」
トリスラント:「僕の馬、ねぇ……」
ジョウイ:「……く、くれぐれもよろしくお願いします……」

 広間に招かれたジョウイは友誼のために差し出す品を持たないので困惑しました(だったらこんなところに来るなよ……)

ジョウイ:「私が持つのは父から授かったこの身体だけ。他には一振りの剣しか持ちません。この剣にかけて、この剣をこの身もろとも友誼の証に差し出しましょう」
アガレス:「しかし貴方はニーベルンゲンの財宝の主だという話だが」
ジョウイ:「ああ……あの財宝は竜の洞窟に置いてきてしまいました。この細工物だけは持ってきたのですが使い途も知りません」

 ジョウイが持っているのは「かくれ頭巾」というもので、頭にかぶると望みどおりのものに変身できるのです。ジョウイはアガレスからそれを聞いて感心しました。

アガレス:「他には?」
ジョウイ:「紋章を―――」
アガレス:「(キラーン)肌身に着けておられるのか?」
ジョウイ:「いえ……すてきな人が守ってくれているのです。それはもう気が強くって可愛くて……

 ノロケモードに入ったジョウイは放っておいて、アガレスはユーナクリフが紋章を持っていることを突き止めてにやりと笑いました。そして何事か合図をすると、ルカの妹ジルが紅茶のカップ……ではなく、杯を手に広間に入ってきました。

ジル:「お客様に盃を。どうぞ」
ジョウイ:「……最初のひと口は、ユーナクリフへの愛の誠を誓って―――」

 めろめろです、ジョウイ君。こっ恥ずかしい台詞ですが小声だったので他人には聞こえていなかったようです。
 しかし!!その酒はアガレスによって薬が混ぜ込まれていたのでした。
 杯を飲み干したジョウイはその瞬間ユーナクリフのことを何もかも忘れてしまい、目の前のジルを情熱的に見つめました。ジルは恥ずかしげに目を伏せました。なにしろジョウイは顔と才能は上等ですから、姫はこの英雄に魅了されてしまったのです。

ジョウイ:「……なんかひっかかる言い方だなぁ……」

 薬の効果は強力です。ジョウイはすっかりジルの虜になってしまいました。

ジョウイ:「ルカ様……妹君のお名前は……」
ルカ:「ふはははははは!!!惚れたか小僧!!!!」
アガレス:「……ジ、ジルというのだ」
ジョウイ:「ルカ様にはまだ妃がおられないのですね?」
ルカ:「ふん、俺様はそんなものどうでもいいがな。アガレスは似合いの女がいると言って聞かんのだ」

 女じゃないんだけどね……もう言うだけムダだね……

アガレス:「名はユーナクリフ。しかし彼女の住まいは炎に囲まれており、炎の壁を突き破るものだけが求婚できるのだ」

 ユーナクリフが自分の妻(爆)であることを忘れてしまったジョウイは、それを聞いて意気込みました。

ジョウイ:「それならば私にお任せを」
アガレス:「しかしどうやって彼女を欺くのだ?」
ジョウイ:「かくれ頭巾を使ってルカ様の姿になりかわります。ジル様をわが妻に頂けるのなら、ルカ様のために働きましょう」
ルカ:「面白い、やってみるがいい。ふははははは!!!」

 そういうわけで、義兄弟の血の盟約を固めるため、誓いの儀式が行われることになりました。二つの杯にワインが満たされ、ジョウイとルカはそれぞれに自分の腕を傷つけて杯に血を滴らせました。

ジョウイ&ルカ:「義兄弟の契りに幸あれかし!」
アガレス:「うっ……こ、これは……おのれ……(ばたっ)」

 ああッ!?ちょっと、アガレス様がワイン飲んじゃダメじゃん!!しかも毒入り!?

ルカ:「ふははははははは!!!コイツは色々とうるさかったからな!!」
ジョウイ:「この地に平和をもたらすためには……」

 いつの間にそういう話になったんだ。
 ……仕方がないのでハーゲンはルカ様に兼ねて頂くことにしましょう(なぜ敬語?)……。
 そしてジョウイは再び舟に乗り、ユーナクリフの岩山へとライン川を下ってゆくのでした。
 


 

第三話に続く。