お題:83毒
更新日:2006/02/14
ジャンル:米コミ/DC
CP:蝙蝠一家(2枚目はNW×B)


蝙蝠一家のバレンタイン。日式ですねー。
米国では女の子→男の子というお約束も、義理チョコも普通ないそうですので。

→おまけ(NW×B)

お題:28甘
更新日:2005/12/31
ジャンル:DC
CP:NW×B



お題:34食
更新日:2009/02/14
ジャンル:米コミ/DC
CP:NW×B


お題:43怖
更新日:2007/07/20
ジャンル:米コミ/DC
CP:B&R


 微かな軋みを立てて優雅な彫込みのドアが開く。
 隙間からそろそろと首を突き出し、ディックは長く伸びた廊下を見渡した。声変わりしたばかりの小さな喉仏がごくりと上下する。
 数メートル向こうの淡い常夜灯は、広い廊下や天井の隅々にわだかまる闇を追い払うにはあまりにも頼りなかった。
 ディックは奥歯を噛み締めて唸った。
 なんでこのお屋敷って、こう無駄に広いんだよ……。
 遠くから重々しい柱時計の鐘が効果満点に響いてくる。

 これぞ草木も眠る丑三つ時。

 ロビンなら路地の暗闇に身を潜めるのも朝飯前だが、それとこれとは話が別。古めかしい大邸宅は独特の威圧感をもって少年を見下ろしてくる。
 客用寝室であればほとんどに付属のバスルームがあるのに、なぜ子供部屋には付いていないのか。設計者が憎らしくてしょうがない。
 とはいえ身体の欲求には逆らえるはずもなく、ディックは背筋を強張らせながら今夜も廊下に踏み出すのだった。


***


「あのさ……夜、廊下が暗すぎると思うんだけど、もう少し明るくできないかな?」
 ブルースはコンソールから顔を上げ、ディックに目を向けた。表情は訝しげだが、機嫌を損ねているわけではないのが解る。バットマンにロビンという相棒が誕生し、調子が乗ってくるに従って、ディックは様々な要求も畏縮せず口に出せるようになっていた。
「歩きにくいのか?」
 ディックは急いで首を横に振った。暗闇を歩けないロビンなんて役に立たない。
「そういうわけじゃないけど、なんて言うか、雰囲気が……」
「幽霊屋敷にでも見えますかな?」
 アルフレッドの助け船に、ブルースは数瞬きょとんとした顔を見せた。
「ああ……なるほど。ディックは幽霊が怖いのか」
「怖いんじゃなくて、苦手なだけ」
 ディックは唇を尖らせたが、反論する声は我ながら説得力がなかった。
「私は幼い頃からこの環境だったし、気にしなくなっていたな。そういうことなら照明を明るくするか、増やすことにしよう。だがディック、おまえの部屋の周辺に幽霊はいない。昔私が使っていた時分に調査済みだ」
 今と同じ気難しいしかめっ面で、屋敷じゅうを調査して回る小さなブルースを想像し、ディックは吹き出した。
「そりゃ確実だね」
 安心感に肩の力が抜ける。
 ……が、ブルースの話はまだ終わっていなかった。
「あまり行かないとは思うが、3階突き当たりのご婦人には声をかけない方がいい」
「……は?ご婦人……?」
「100年くらい前のメイドらしいんだが、構うとしつこくつきまとわれて追い払うのが大変だ。後はほとんど無害だな」
 ディックはブルースの顔を隅々まで見回したが、どうやら本気で言っているらしいと判断した。彼にこんなユーモアのセンスはない。
「西塔にいるのは無反応だし、書庫の老人は親切に色々教えてくれるぞ。他にいたかな?」
「食料庫に小さな姉妹がいるようです」
 アルフレッドが静かに言い添える。
 ディックは背中に嫌な汗をかきながら、じりじりと後じさりしていた。
 ああっ目の前に僕の知らない世界が広がってるよぉっ……
 夜の邸内は絶対に歩かない、食料庫におやつを漁りに行くのも今日限りやめる、と密かに決心するディックであった。

 もっとも、世界最高の探偵は、神様や異星人や魔法使いや妖精やその他よく分からない諸々とも付き合っていかねばならないのであって、幽霊ごときに怯んでいる場合ではないと程なくして悟ることになるのだが。

お題:47離
更新日:2008/01/07
ジャンル:米コミ/DC
CP:S×B


pianissimo

 心臓の音が戻ってきた。
 執拗なまでに秘密主義の蝙蝠は、その地下のねぐらに入ってしまうとスーパーマンの聴力をしても、彼が活動している音を聞き取るために非常な集中力を要する。ケイヴには更に完璧な防音を施した部屋もあり、そこからはもはや何も聞くことができない。
 今は、静寂の世界から規則正しい鼓動の音が戻ってきている。バットマンは闇色の衣装を脱ぎ、ブルースが地上に出てきたのだ。
 午前3時。これから寝むところだろうか。
 いつの頃からか、このくらいの時間にはゴッサムに向けて耳を澄ませることが、クラークの密やかな日々の儀式と化している。
 ブルースはまだ外で奮闘していることもある。とっくに眠っていることもあるし、ケイヴでなにやら作業に没頭していることもある。
 いつものように、クラークは少し迷う。今訪ねていったらどうだろうか。
 歓迎されるだろうか、しかめ面で追い払われるだろうか。
 小さな苦笑が漏れる。もちろん喜ばれはしないだろう。あの友人は年を追うごとに無愛想に、かたくなになってゆくが、それでも歓迎されていないわけではない、と察することができる程度には深い付き合いが続いている。
 メランコリックな気分の夜は、想いを抑え切れずに飛んで行ってしまうこともある。
 笑顔で迎えてくれなくたっていい。短いやり取りを交わすだけでもいい。
 この宇宙にたった一人放り出された絶対的な孤独は、賑やかな仲間に囲まれても、北極で静かに自分を見つめ直しても、癒されないことがある。そんな時、あの低く深い声を無性に聞きたくなってしまうのだ。
 夜とも朝ともつかぬ曖昧な時間に、プレイボーイでもヴィジランテでもない彼に会いたくなる。
 落ち着いた心臓の音を追いながらぐずぐずと悩んでいると、天を突き刺すような悲鳴が聴覚に割り込んできた。次の瞬間には赤と青の突風が窓から飛び出していった。
 ガソリンスタンドに巨大な15tトラックが突っ込み、ガソリンが飛び散ってあわや引火という状況だ。スーパーマンは胸いっぱいに空気を吸い込み、氷の息を吐いた。
 周囲に怪我人はなし。トラックの運転手は重傷を負ったが命に別状はない。
 到着した警察官の現場検証に5分間だけ付き合って、スーパーマンはクラークに戻った。
 3時20分。ブルースはもう眠ってしまっただろう。
 あらためて意識を向けたが、ブルースの心音が聞こえず、クラークは一瞬ひやりとした。
 もう少し耳を澄ませると平常時よりも少し速い鼓動を拾うことができた。どうやらブルースは再度地下に潜ったらしい。
 キーボードを叩く音、苛ついた舌打ち。重いケープが空気を打ち、やがて大きなエンジン音が響く。地上で脈打つ心臓の音がはっきりと耳に届く。
 今、メトロポリスの夜は静かだった。クラークはゆっくりと寝間着に着替える。だが眠ることはできない。
 ゴッサムの懐深く、不快な音が鳴っている。
 人間の肉体が叩きつけられる音。怒りに満ちた喚き声。銃声。爆音。知らず知らずのうちにクラークの身体は地面から数センチ浮いている。
 バットマンの拍動は続いている。
 彼が無事にケイヴへ帰ったことが確認できるまで、クラークは眠らない。
 激しい殴打の音。押し殺された呻きは彼のものだ。脱いだばかりのコスチュームに思わず手が伸びる。
 すんでのところで窓を飛び出そうとするクラークを引き止めたのは、もっとすぐ近くから鳴り響いたアラーム音だった。月からの呼び出しだ。同時にジョン=ジョンズからテレパシーでの通信がくる。やれやれ、どちらにせよ暗い空に飛び立つことにはなるが、向かう先は地球の裏側へ変更しなければならないようだ。
 バットマンが体勢を崩したのはほんの束の間のことで、心音は既に平常になっている。
 危ない所だった。恐ろしく不機嫌に苦情を言われることを承知の上で、今彼の戦いに割り込んでも、うまく理由をでっちあげられる自信がない。
 遠い地の事件を解決して帰ってくる頃には、蝙蝠もきっとねぐらへ帰っているだろう。
 6時40分。
 穏やかな寝息。緩やかな心音。朝日に目を眇めながら、クラークは少し迷う。今訪ねていったらどうだろうか。
 ごく静かに、誰にも気づかれぬように。そっと彼の髪を梳き、額に指を滑らせたら。
 小さな苦笑が漏れる。口笛を吹きながらシャワーに向かう。

 会えなくても、見えなくても、存在を感じている。
 君はそこにいる。

お題:51火
更新日:2010/06/26
ジャンル:米コミ/DC
CP:NW×B


 大きな手が項を優しく撫で上げる。
 繰り返す動きはあくまで穏やかだが、どこかゾクゾクする遊びがある。
 恋人の撫で方だ。親子のそれではなく。
 気付いた瞬間、思わず甘い声が漏れそうになる。だがディックはできる限りの平静を装い、吐息を密やかに飲み込んだ。
 ひとつ目。
 ブルースはきっと無意識に手を動かしているのだろう。眠りと思考の狭間をゆるゆると漂っているようだ。
 ベッドは乱れ、情熱の名残が空気に混じって部屋を満たしている。
 ディックはすっかり満足しきって手足を伸ばし、ブルースの肩に頭を預けていたが、首筋を撫でる手が落ち着き始めた身体に再び火を点けてしまった。
 だがこのゆったりした刺激があまりにも心地よくて、遮ってしまうのは惜しいとも思う。
 慈しむような、誘いかけるような。無造作に所有権を主張するような。
 指摘したら、ブルースは手を止めてしまうかもしれない。続けてくれたとしても、この手が伝える意味はまったく変わってしまうだろう。
 ディックは熱を持ち始めた下半身を宥めながら、かすかに、さりげない動きで額をブルースの首筋に擦りつけた。
 上品な石鹸の香りと、男っぽい汗の香りが混じって鼻腔をくすぐる。
 ふたつ目。これは多分に自業自得だけれど。
 一定していた手のリズムがふと止まる。ディックは物足りない気分で頭をもたげた。
 不思議な色を湛えたブルースの瞳と視線が合う。
「どこへ行く?」
「え?」
 くぐもった問いに驚いて、ディックはまず間の抜けた声を上げてしまった。
 僅かな身じろぎを、ベッドから出ようとしたように思われたのか。
「どこにも。ここにいるよ」
 ブルースは一瞬何か考え込むような表情を見せ、それから何事もなかったかのように目を伏せた。
「ならいい」
 そっけない一言。だがその言葉と共に、眉間が、目尻が、口許が微かに和らぐのをディックは見逃さなかった。
 みっつ目。もう駄目だ。耐えられない。
 投げ出された長い脚に自分のそれを絡める。
「ディック……」
 呆れたように上がる片眉さえ、ここまできたら火に油。
 ディックは目の前の唇に吸い付き、ブルースの胸の曲線を手でなぞった。
 ブルースはディックのスイッチがどこにあるのか、いまだに理解していないらしい。ONにされればたちまち燃え上がる情欲のスイッチを、何の気なしに押しては、取り返しの付かないところまでディックを追い込んでしまう。そうしてディックが行動に起こした時、初めて気がついたような顔をするのだ。まったくひどい話だ。
 こっちは逆に、いつもブルースのスイッチをなかなか押せなくてもがいてるっていうのに。ディックは恨み言の代わりに、力強い顎の輪郭に歯を立てた。
 円を描くように脇腹の傷跡を撫でると、吐息に柔らかな呻きが混じる。されるがままになりながら、ブルースの手は空をさまよっている。そろそろ日が中天に差しかかる頃だ。拒むべきか乗るべきか決めかねているのだろう。
 意地でも乗せてやろうと固い決意で挑んでも、肌に舌を這わせればその味にディックはたちまち没頭してしまう。
 ブルースはひとつ長く息をつき、そっと腕を移動させた。片手はディックの背に、片手は再びディックの首筋に。
 大きな手が優しく項を撫で上げる。
 恋人の撫で方だ。親子のそれではなく―――今度は明確な意志をもって快感を煽ってゆく。
 ディックはたまらず喉を鳴らした。
 暖かな掌の感触に身を浸し、目を開くと、穏やかだったブルースの瞳が炎を灯して見つめてきた。
 どうやら彼のスイッチに手が届いたようだ。ささやかな勝利感も、襲ってくる怒濤のような熱情に流され紛れていく。もう駆け引きなどどうでもいい。ただ欲しい。ブルースが欲しい。
 もっと快感を貪るためにディックは身体をずらした。ブルースの手が離れる最後の一瞬にやさしく頬を撫でていく。
 父親のような、兄弟のような、親友のようなやさしさで。
 これがとどめのスイッチだ。
 苦しいほどの愛しさが込み上げ、呼吸の仕方さえ忘れそうになる。
 この手が触れてくれるなら、僕はなんでもするだろう、とディックは思う。なんでもする。
「ブルース」
 掠れる喉が必死に言葉を押し出す。もつれる指がぎこちなくスイッチを探る。
「あいしてる」
 乱れた吐息の合間からブルースの低い喘ぎが耳に届く。それを最後に、ディックは残った僅かな理性を手放した。

お題:60服
更新日:2006/10/08
ジャンル:米コミ/DC
CP:蝙蝠一家


 いつものようにティムが窓から入って来たとき、ディックは机でなにやら書き物をしていた。
 軽く挨拶を交わしてちらりと覗いてみると、スケッチブックにタイツ姿のヒーローが描かれている。どうやら新しいコスチュームを考案中らしい。ファミリーの中でも人一倍コスチュームにこだわりを持つ彼は、日頃から熱心に研究を重ねているようだ。
 なんとなく気分の良いとき、落ち込んだとき、相談のあるとき、この兄貴分の部屋で束の間くつろいで行くことにもすっかり慣れてしまった。ティムは勝手知ったるなんとやらでキッチンに侵入し、冷蔵庫の牛乳をマグにあけた。
 これで3杯目、今日はあと2杯がノルマだ。ティムは牛乳を一気に飲み干した。
 バットマンは背が高い。元々の長身に加えて闇に広がるマントや、鍛えられ盛り上がった筋肉、そしてなにより悪党どもが感じる威圧感と恐怖が彼を実際よりも大きく見せる。
 対してロビンは実際よりも小さく、幼く見られることが多かった。バットマンが2mを超す大男だったと証言される傍ら、ロビンはすばしっこい子供だということばかり強調されるのだ。人間の主観など当てにならない。比較の問題なのだと分かってはいるものの、どうにも割り切れない気がするのも確かだった。
 だけど、とマグに再度牛乳を注ぎながらティムは思う。
 僕は今成長期だ。まだまだ期待できる年頃じゃないか。
 子供に見られることにもメリットはあるけれど、この先ずっといつまでもそのままではいられない。いたくない。ささやかなようでいて大いなる意地だった。
 2杯目の牛乳を、今度はゆっくり飲みながら戻ると、ディックはまだスケッチブックに向かって思案に暮れていた。
 鉛筆を咥えたかと思うと両手で頭に角のようなものを作ってみる。次いで片方の掌を頭上でひらひらさせてみる。それから人差し指と親指で、間の尺を測ってみる。
 ティムは同情の篭った溜息と共に牛乳を飲み下した。
「ディック、それって欺瞞」
「うるさい」
 丸められた紙くずが飛んできた。

お題:68風
更新日:2009/05/25
ジャンル:米コミ/DC
CP:ディック→ブルース、ジェイソン→ブルース


 ティーンタイタンズ本部内の自室に足を踏み入れようとして、先客がいることにディックは気づいた。
 少年が扉に背を向けてベッドに腰掛け、雑誌のページをめくっている。その派手な色合いの衣装はついこの間までディックが纏っていたものとサイズ以外はそっくり同じで、胸のどこかにもやっとした重りを乗せられたような気分になる。
「ジェイソン。それ借り物だからな、丁寧に扱えよ」
 青い目を大きく見開いて少年は振り返った。
「マジで?その歳でこんなもの貸し借りすんの?しかもヒーローチームの中で?」
 ジェイソンが手にしているのは、彼の年齢には明らかに早すぎるシロモノだ。
 ディックはニヤリとした。早熟なことに関しては身に覚えがある。
「男の友情はこうやって確かめるものなんだよ」
 小さく鼻を鳴らし、新米少年ヒーローは雑誌を脇の机に戻した。ディックは向かい側の椅子に腰を下ろした。
「で、わざわざどうしたんだ?何かあったのか?」
「別に。たまには様子を見てこいって、アルフレッドに言われたんだ。あんたが全然連絡よこさないって嘆いてた」
 大袈裟な溜息に混じる英国風のアクセントが聞こえた気がした。ディックは決まりが悪くなって襟足を掻いた。
 万一あの屋敷の主が出たらと思うとウェイン邸に電話はかけづらい。何度か直接アルフレッド個人の携帯電話にかけたことはあるが、最近は日々の忙しさに取り紛れてしまってつい放ったらかしにしていた。
 そんな不義理な自分のこともウェイン家の老執事はずっと気にかけてくれていて、こうして何かと気遣ってくれる。誰かさんとは大違いだよな、と口の中で呟いた。
 寂しさやら罪悪感やらが混じり合ったホームシックをごまかすように、わざとクールさを装って肩を竦める。
「便りが無いのは良い便りって言うだろ。そっちはどうだ?もう慣れてきたか?」
 そういえばジェイソンと落ち着いて会話したことなんて数えるほどしかない。育ってきた環境も性格も自分とは大きく異なる少年が、何を思ってロビンになったのか、どんな風に日々を過ごしているのかもよく知らないままだ。
 ジェイソンは意外にも減らず口を引っ込めて視線をさ迷わせた。
「あの……実はひとつ気になっていることがあるんだけど」
「ん?」
 予想外の反応に好奇心を刺激され、ディックは身を乗り出した。ジェイソンはちらりと扉を見やって他に誰もいないことを確かめてから、用心深く声を抑えた。
「ブ……じゃない、バットマンってさ、その……エロくね?」
 耳に届いた言葉が脳内で意味を成すまで悠に3秒かかった。
 ぽかんと口を開けたディックの頭の中に様々なブルースの姿がよぎってゆく。際どい視点から目撃したバットマンの姿やら、バットスーツを破かれあられもなく肌を露出している姿やら、布切れ同然の下着一枚でトレーニングに励んでいる姿やら……
 いや待て待て。違うだろ。ディックは意志とは関係なしに頷こうとする自分を寸でのところで止めた。
「そ、そうか?まあ、男はみんなエロいもんだけど……でもあの人はいちおう節度はあるよな?猥談とかするの聞いたことないし。セクハラで訴えられたこともないし。TPOはわきまえてる……」
「そうじゃなくてさ。ええと、スケベって意味じゃなくて……なんて言うか、見ている方がエロい気分になるって言うか」
 やはりそっちなのか。ディックは思わず頭を抱えた。
「こんなのっておかしいのかな?俺自分はストレートだと思ってた。でもあの人見ているとなんかたまらない気分になるんだ」
 戸惑いに曇った少年の顔はディックをいたたまれなくさせた。ジェイソンの悩みはわかりすぎるほどよくわかる。
「おかしくはないさ。あの人って男から見ても男らしいしセクシーだろ。男に興味があるか女に興味があるか性的な指向ってのは人それぞれで、はっきり分かれているものでもないんだ。成長するにしたがって解ってくるものだよ。しばらく様子を見たらいいんじゃないか?」
 まるで自分に言い聞かせているみたいだ、とディックは思った。
 馴染みのある疼きが胸の奥を引っ掻いている。ケイヴを去った日に、この想いはなかったことにしようと決めたのに。
 押し黙って聞いていたジェイソンが探るように見上げてくる。
「ディックもあの人はエロいって思う?」
 ああ、ありえないと突き放せたらどんなにか良かっただろう。
「時々無防備に振る舞われたりするとドキッとするよな」
 わざと軽い口調で、笑い混じりに答えると、ジェイソンは妙に納得した顔で呟いた。
「やっぱりそうなんだ」
「え?」
 なにが、と問う間もなく、ジェイソンは勢いよく立ち上がった。目にも鮮かな黄色のケープが翻る。裾さばきも堂に入ったものだ。
 思い切り生意気に顎を上げ、一音ずつはっきりと宣言する。
「俺絶対あんたには負けないから」
「……は?」
 ディックが唖然として動けないでいるうちに年若い駒鳥は姿を消していた。
 突風が過ぎ去った後のように、息をついて椅子にもたれると、借り物の雑誌が目に入った。エキゾチックな美女が豊かな乳房を晒して表紙に寝そべっている。
 ひょっとしてかまをかけられたのか、とようやく気がついた。

お題:74唇
更新日:2007/11/02
ジャンル:米コミ/DC
CP:キャス&ステフ(×ティム)




「見て見て、あたしたちちょっといつもと違うところあると思わない?」 
「え?……えっと」 
「んもー、ロビンでもやっぱり分かんないの。男ってこういうの鈍感!リップよ、リ・ッ・プ」 
「ステフとおそろいなの」 
「そうなの。このコ自分でお化粧したことないって言うから貸してあげたの。ね、似合うでしょ」 
「う、うん……」 
「そうだ!ねえねえキスしよ!そしたらロビンもおそろいだよー!」 
「えっ、わっステフ、ちょっ……むぐぐ」 
 
チェリーピンクのおもいで。

お題:79神
更新日:2007/05/20
ジャンル:米コミ/DC
CP:NW×B


 ブルース・ウェインという男は、時々本当に耐え難い。
 どうしてこんな人が好きなんだろうって僕はいつも疑問に思っている。
 彼にとって『家族』なんていうものは『ごっこ』でしかなくて、喪って得られなかったものの埋め合わせをしているだけ。
 家族だけじゃない。誰の事だって彼は最終的に信用していない。本当は誰のことも必要としていないくせに、体裁だけ取り繕って気紛れな優しさを見せる。なにより哀しいのは、彼自身がその体裁を本物だと信じ込みたがっているってことなんだ。
 割り切ってしまえば早いのに、諦めてしまえば楽なのに、いっそこんな茶番劇を壊してしまえば自由になれるのに、僕にはそうできない。
 信頼するってことを知って欲しい。誰でも誰かが必要なんだって解って欲しい。僕が彼にとって何らかの意味を持っているって信じさせて欲しい。
 だから僕は彼に怒るし、怒鳴るし、派手なケンカだって何度もした。
 頑固で、傲慢で、ずるい。意地っ張りなひねくれ者。
 そのくせ抱き合えば、存外に彼は従順だったりする。舌先で促せば唇を開くし、急いた指先がちぎりそうになるボタンも自分からそっと外してくれる。それが嬉しいこともあれば、たまらなく嫌になることもある。
 結局のところ、あんたにとって僕ってなんなの?
 いつも問いが喉に引っかかっているけど、答えは聞きたくない。どうせ耳に心地が良いだけのタテマエが返ってくるのだろう。むしろ本音を言われたら、もしかすると一生立ち直れないかも。
 彼の唯一の存在になりたいなんて、虚しい幻想でしかないって、解っているんだ。
 パートナーも家族も親友も、たとえ恋人だって、彼を手に入れることなんかできない。
 なぜなら彼の魂も肉体も、既に贄として捧げられてしまったからだ。
 狂える街の夜を飛ぶ、あの闇の色をした翼の神に。
 解っている。そうして僕は贄たる彼に洗礼を受けてしまったのだから。
「ディック」
 繰り返す口づけを遮って僕を呼ぶ声には、篭っていたはずの熱がもう失われていた。
 そんなあ、ちょっと待ってよ……期待を裏切られた僕の下半身からは抗議の大合唱。
 僕は恨みを込めて窓の外を睨みつけた。
「シグナルだ」
 強盗?殺人?麻薬密売?なんにせよ今日僕が出会う悪党どもは無事じゃすまないからな。
 憎たらしいことにブルースは余韻も何も無く、すっかり世界最高の探偵の顔になっていた。
 そしてどうにも腹わたが煮えくり返るくらい憎ったらしいことに、僕はそんな彼をいちばん愛しているんだ。
 ブルースの心はもはやここになく、強大な敵に立ち向かう戦士の足取りでケイヴへと向かってゆく。
 ああ、これさえなければ嫌いになれるのに。
 僕は悔し紛れに、蝙蝠のマスクが隠せない無防備な唇へと熱烈なキスをお見舞いしてやったのだった。

お題:94押
更新日:2007/04/07
ジャンル:米コミ/DC
CP:蝙蝠一家