ハロウィンは子供のお祭り。
穏やかなキャロでも、お祭りの日は、大賑わい。
子供たちが派手な仮装で街を練り歩く。
そして、扉の前に立って、コンコンとノック。
「Trick or Treat?」
僕は笑いながら、自分の胸くらいの高さの子供たちに、用意しておいたお菓子を渡す。
キャンディーやクッキー。色々なお菓子がばらばらと。
子供たちは喜んで、きゃあきゃあと騒ぐ。
賑やかなのは嫌いじゃない。イベントとあらば、街ぐるみで騒ぐなんて風潮も嫌いじゃない。
もっとも、戦争後だけどね、こんなにイベント好きな街になったのは。
暗い世情とは反対に、祭りを派手に祝うようになった。
元来、お祭り好きだったのは、言うまでもないけど。今ほどじゃなかったはず。
イベントは楽しくて好き。
ただ、子供の訪れが途絶えると、つい考えてしまう。
「ジョウイもナナミも、どうしてるかなぁ」
ナナミは、ハロウィンに合わせて、女友達に集合をかけてグリンヒルに遊びにいってしまった。
そしてジョウイは、隣町に買い物に行ったきり、まだ帰ってこない。
ハロウィンまでには帰るよって言ったのに、ジョウイはまだ帰ってこない。
「ジョウイがいれば、もっと楽しいのにね」
一人で呟いてから、自分で落ち込んでしまった。
だって、イベントだよ?
そりゃ、クリスマスやバレンタインデーみたいに、恋人のためにあるようなイベントじゃないけど、でも。
ジョウイがここにいれば、きっともっと楽しいだろうに。
「…街でも歩いてくるかなぁ」
街は今、ハロウィン一色に染まっている。
ランタンが道に鈴なりになっていて、それはそれできれいだ。
ハロウィンに作られるカボチャのランプは、ジャックオランタンと呼ばれて、どうやらこの光を目指して死んだ人の霊が返ってくるらしい。
それを思うと、きれいな光の行列も、少しだけ怖い気もする。
通りに出ると、家々の前にランタンが並んで、道を灯していた。
街の通りは、そこまで暗いわけじゃない。でも、明るくはない道に、点々と光が続いてる。なんだか、幻想的な風景だった。
ふと、気づいたら、向こうから一人の少年が歩いてくるのが見えた。
見知った顔だ、それはもちろん。
しかし、僕はその場から動けなかった。
点々と灯されている光が、道をぼぅっと照らしている。
その道の先から、明るい髪を揺らしてジョウイが歩いてくる。
それは、まるで。
「…ただいま、アルタ」
ジョウイが僕に笑いかける。
背景は、溶け込むような闇と、まるで人の魂を呼び込むようなランタンの灯り。
「おかえり…」
それは、まるで。ねぇ、まるで。
「どうしたの?」
ジョウイが、心配そうに声をかけてくる。
「ねぇ…」
ここがまるで、どこだからわからない。足元がふわふわしている感覚に陥る。
「……君は、生きてるの?ジョウイ」
びっくりしたように、目の前の少年が目を見開いた。
彼が、一歩こちらに近づいてくる。
「…アルタ」
ジョウイがふわっと微笑んだ。頬に彼の手の感触。
「僕は、生きてるよ」
「良かった…」
思わずぎゅっと抱きしめてしまうと、腕の中の存在がびっくりしたように身じろいだ。
やがて、あきらめたように大人しくなったジョウイを、さらにきつく抱きしめる。
「…アルタ」
耳元で囁かれる、ジョウイの声が心地よい。
ここが公衆の面前だとか、人通りのある道端だとか、そんなことはどうでもよかった。
しばらくして、ようやく動悸が落ち着いてきた。
なんだか、確認していないと不安だったんだ。
君が、いつかどこかへ行ってしまうような。
だってこの光が。この灯りが、彼をどこかへ連れて行ってしまうような、そんな気がしたから。
「バカだね、僕…」
頭をかいて、苦笑する。
だって君らは、この光に呼ばれただけのような気がしたから。
「ねぇ、僕、ジョウイが好き…」
「僕も、好きだよ」
思わず、涙がこぼれた。
なんだかすごく照れくさくて恥ずかしいけど、少しだけ涙がこぼれたんだ。
「…帰ろうか」
「うん…」
ジョウイの手は、とても温かかった。
暗い道を、二人で歩く。
足並みは一緒。並んで歩く。
ふと、ジョウイは思い出したように、手に持っていた袋を僕に渡した。
「遅れたおわびだよ」
「何それ?」
「だって、ハロウィンだし…」
どうやら、中身はお菓子らしいとわかって、僕は思わず笑ってしまった。
でもね、僕はハロウィンに君がいないかもって思って、すごくがっかりしたんだよ。
だから少しだけ、意地悪してみたくなった。
「…ねぇ、ジョウイ。僕、もっとほかのがいいな?」
「ほ、ほかのって?」
「甘いものなら、なんでもいいよ?」
にっこり笑って言ってみる。
ジョウイって鈍いから。この意味、わかるかなぁ?
と、思ったら、唐突に引き寄せられてキスされた。
「……これでいい?」
うわ。なんだか余裕で、悔しいかも。
「Trick or treat ?」
そう囁いて、キスを返す。
ジョウイが真っ赤になって、僕の服を掴んだ。
「それ、違わない…?」
「…バレた?」
だって、両方欲しい。
甘い君に、悪戯したい。
ハロウィンの夜に、君と二人で。
Trick and treat ...
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