ある日、ユーナクリフはたいそうお腹をすかせて歩いておりました。
実のなるような木もないし、食べられるような草もありません。腕に覚えのある彼のこと、いのししでも出てくればトンカツにできるし、カットバニーでも出てくればクリームシチューにするところなのですが、生憎こういうときに限ってひいらぎこぞうくらいしか出てこないのでした。
これでは青汁しか作れません。
いくらお腹が空いてるからって、毒はいやだなぁ……。
そんなことを考えつつとぼとぼと歩いておりましたが、いよいよ腹の虫は哀れっぽく鳴いて空腹を訴えます。
しかたがないのでその辺りで青汁の元でも捕まえようかと見回すと、ふと木陰に果物が落ちているのに気が付きました。
どうやらそれは熱帯産の、果物の女王と呼ばれるマンゴスチンのようでした。
「大ラッキー♪」
ユーナクリフは大喜びで駆け寄ると果物を手に取りました。
しかしよく見ればそれは果物ではありません。マンゴスチンのヘタの部分が蓋になっている、木彫りの容器でした。
「あれぇ……なあんだ、ただの容れものかぁ……」
ユーナクリフはがっかりしました。せっかく食べられるものが見つかったと思ったのに。意気消沈したまま、ユーナクリフは多くの人がついやってしまうのと同じように、蓋になっているマンゴスチンのヘタを持ち上げました。
すると突然、中から小さな煙がぽんっと上がり、人型になりました。
ユーナクリフはびっくりして目を奪われました。マンゴスチンの器の中に入っている小さな人は、ほっそりとした身体にプラチナブロンドの長い髪、それにすっきりとした青灰色の瞳の、とても綺麗な顔立ちをしていました。
「君は?」
「僕はジョウイ……この器に封じられた精霊なんだ」
小さな彼は、小さな声で名乗ると必死に頼みました。
「僕の家を食べないでくれ。その代わり願い事をひとつ叶えてあげるから」
食べようにも食べものじゃないんだから無理だろうとは、ユーナクリフは突っ込みませんでした。そんなことにも気がつかないほど、ユーナクリフは一心にジョウイを見つめていました。
「願い事?なんでもいいの?」
「なんでもいいよ、ひとつだけ」
「じゃあ……僕の恋人になってよ」
つまりは、一目惚れしてしまったのです。
ジョウイはぽっと頬を赤らめました。
「わ、わかったよ……君なら僕も……喜んで」
そう言った途端、ジョウイは普通の人間と同じサイズになりました。至近距離に拡大された綺麗な顔が現れて、ユーナクリフはドキドキしました。
晴れて恋人同士になり、ジョウイはユーナクリフにキスを贈ると、そっと抱きしめて木陰に横たえました。ユーナクリフもうっとりと恋人を見つめたまま、おとなしくされるがままになっています。
ジョウイがユーナクリフの上着を脱がせようとしたとき、彼のお腹が盛大に鳴りました。
「そういえば僕、お腹が空いてたんだよね……」
いきなりやる気を殺がれてジョウイは唖然とし、ユーナクリフはむくりと起き上がりました。そのまま勢いをつけて今度はジョウイを押し倒します。
「うわっ!?ちょ、ちょっと……」
「君の家は食べないから君を食べさせてよ」
「何――――っ!?」
ユーナクリフはにーっこり笑ってジョウイに愛撫を施し始めました。最初は抵抗していたジョウイですが、だんだん甘い声を上げ始めます。
そんなわけでジョウイはおいしく頂かれてしまったのでした。
その後ユーナクリフはジョウイと共に精霊の魔法で家に帰り、きちんと胃袋も満たすことができました。
二人はもちろん末永く幸せに暮らしたそうです。
おしまい。
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