草木も眠る深夜のグレッグミンスター。
マクドール邸の廊下をふらふらと移動する白い人影―――別に幽霊ではない。それはマクドール家の面々に客人として迎えられている三人組のうちのひとり、ジョウイであった。
用を足しに行った帰りなのだが、彼は低血圧なので寝起きが悪いためか、今も足元が少々覚束ない。暗い廊下を探るように辿り、数日前から泊まっている客間をなんとか見つけ出すと、扉の隙間に滑り込んだ。
部屋の奥まで進んでベッドの上をそっと手でなぞり、そこに誰も寝ていないことを確認する。間違えて隣のベッドに行ってしまうと、幼馴染の少年が眠っているはずだからだ。
ジョウイは欠伸をしてやれやれと布団にくるまった。朝に弱い分、夜にしっかり睡眠を取っておくことは大切だ。すぐに意識に気だるい靄がかかり、眠りの淵に誘われてゆく。
しかし、しばらくの後。
胸のあたりが重苦しく感じられて、ジョウイは目を覚ました。
(あ……れ?)
部屋の隅に明かりが灯されているのか、ぼんやりとした視界がほの明るい。
自分の上には何か黒い影がのしかかっている。おまけにがっちりと押さえつけられているようで、起き上がることができないのだ。
困惑して、腕に力を込め身じろぐと囁くような静かな声が降ってきた。
「驚いたよ。夜の散歩から帰ってきてみれば……」
「……と、トリス?」
これは一体……と訊ねる間もなく、トリスラントはジョウイの上に身を更に伏せて顔を近づけてきた。含んだ笑いを耳元に吹き込まれて背筋が震える。
「君は意外と積極的なんだね……ジョウイ」
「……え?」
「僕のベッドに入って待ってるなんて、大胆な誘い方だなぁ」
「……!!?……」
慌てて周囲を見回してみると、薄明かりの中に浮かんでいるのは自分が眠りについたはずの部屋とは大分様相が違っていた。
ジョウイはようやく事態を把握して蒼ざめた。
「ち、違……これはっ……」
「安心してくれ。誘いをかけられて断るほど無粋じゃないよ、僕は」
「だから違うって言っ……ぅん……っ」
必死の訴えは降りてきた唇に吸い取られ、濃厚なキスに散らされてしまう。ジョウイは乱された息の下でもがいたが、そうしているうちにも恐ろしく手馴れた動作で夜着が剥がされてゆく。跳ね飛ばそうとしてもどんな手を使っているのか、トリスラントはびくともしない。
「お望みどおり可愛がってあげよう」
冗談じゃない。ジョウイは頬を引きつらせた。間近にある白磁の顔に刷かれた甘い表情が悪魔の笑みに見える。
「待って、ひ……ぁッ……」
(人の話を聞けーーーっ!)
喉元から肌を辿り始めたトリスラントの指に、そんな叫びも許されず。
寝ぼけて部屋を間違えただけなんだ!!
そのたった一言を夜明けにようやく告げられるようになるまで、多大なる誤解はジョウイの喘ぎ声の下に封じられてしまったのだった。
オワリ。
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