狼さんに気をつけて
〜赤ずきんちゃん・改訂版〜



 
 
 
 
 
 
 
 


 ある街に、ひとりの少年が義姉と一緒に住んでおりました。少年はユーナクリフという名で、いつも赤い上着を着ていました。
 ある日のこと、ユーナクリフは義姉のナナミから、森の向こうにある幼馴染の家におつかいを頼まれました。
「ケーキが焼けたから、ジョウイに持っていってあげてね」
 にっこり笑って渡されるナナミケーキ。果たしてジョウイがそれを喜ぶかどうかは謎ですが……いつもナナミの料理を食べ慣れているユーナクリフは素直に引き受けました。
 大好きなジョウイに会いに行けるんだ嬉しいな、と鼻歌まじりで出発しようとするユーナクリフを呼び止めて、ナナミはこう注意しました。
「ジョウイの家までまっすぐ行かなきゃダメよ。森には狼がいるらしいから、気をつけてね」
 ユーナクリフはこくんと頷いて森の小道を歩き始めました。
 さて、その森にはトリスラントという名の狼が住んでいました。
 木立の陰で寝転んでそろそろ小腹が空いてきたかな、と思っていると赤い上着の少年が歩いてくるのが見えました。素朴な顔立ちは面食いの彼の好みからは少々外れますが、若くて健康そうだし気の強そうなところがおいしそうです(いや、それって…)トリスラントは道に出て少年に話し掛けました。
「やあ、どこへ行くんだい?」
 突然現れた相手にユーナクリフはびっくりしましたが、すぐに初めて見る狼に対しての好奇心でいっぱいになりました。
「この森の向こうに住んでいる友達のところに行くんです」
「へぇ?……」
 トリスラントは素早く頭を働かせました。
 にっこりと優しげな笑みを作ると、親切そうにユーナクリフの肩に手を置いて身体の向きを変えさせます。
「仲の良い友達なんだね?それならちょっとしたプレゼントを持っていってあげたらどうだい、きっと喜んでもらえるよ」
 トリスラントの指し示す先には、綺麗なお花畑がありました。魅力的な提案にユーナクリフは顔を輝かせました。
「そうですね!ありがとう狼さん」
 お花畑に足を踏み入れ花を吟味し始めた少年を尻目に、トリスラントは心の中でしめしめと笑って小道を急ぎました。
 しばらく行くとユーナクリフの友人、ジョウイの家が見えてきました。窓から覗き込んでみると家の主はベッドでお昼寝しているようでした。
 トリスラントはこっそりと玄関から忍び込みベッドまでたどり着きました。寝ている少年は綺麗な金髪に整った思慮深そうな顔立ちで、なかなかおいしそうでした。
 そっと揺り起こしてみましたが、目覚めた少年は低血圧らしく、かなりぼんやりとしています。しかしどうにか自分を起こした人物の方に視線を向け、親友が訊ねてきたのかと思いました。トリスラントはユーナクリフと同じ赤い色の上着を着ていたのです。
「あれ……ユノ?君、いつもの武器と違うんだね」
 ぼんやりとしたまま尋ねると楽しそうな声が答えます。
「君とおそろいにしてみたんだよ」
「それになんだかかなり貫禄が増したような」
「君のために男を磨いてきたのさ」
「……ところで、なんで僕の服を脱がせているんだい……」
「そりゃあもちろん、君を食べるためだよ♪」
 ちゅっとくちづけされてジョウイはようやく異常に気づきましたが、時すでに遅し。
「いただきまーす♪」
「!!!!?……ぅわーーーーっっ!」
 ジョウイは狼に押し倒されて、おいしくいただかれてしまいました。
 その頃ユーナクリフはというと。ついつい森の陽気に誘われてお昼寝していました。
 はっと気が付いた頃にはすいぶん時間が経ってしまったようです。慌てて花を摘んで小さなブーケを作ると、急いでジョウイの家に向かいました。
 玄関のノックの音に、トリスラントはユーナクリフがようやく来たことを知りました。
 疲れて眠っているジョウイを布団に押し込み、自分も頭まで被ります。ジョウイに成りすまして近づいてきたユーナクリフも襲ってしまおうという考えでした。
 そんなことを露とも知らないユーナクリフは、ノックしても返事がないので自分で玄関の扉を開けて家に上がりました。
 親友の姿を探して、狼が待ち受けている彼の寝室へ入ろうとしたその時。
「坊ちゃーーーーーーーーん!!」
 怒涛のような勢いで走りこんできた人影がユーナクリフを追い越してベッドに突進しました。
 どこかで見たことがあると思ったら、狩人(ってより木こりだろう)のグレミオ氏でした。
「グ、グレミオ……!?」
「もう帰らないと夕食に間に合いませんよ!せっかく坊ちゃんのお好きなシチューを用意しているんですから」
「ああああ〜据え膳がぁぁぁ」
 グレミオはトリスラントをベッドから引っ張り出し、そのままずるずると引きずっていきました。
 ユーナクリフはぽかんとしてそれを見送っていました。
「……なんだったんだ、今の?」
 もっともなご感想です。
 とりあえず、ジョウイは居るのだろうか?ユーナクリフは首を捻りながら寝室に入りました。ベッドの上には誰かが布団にくるまって寝ています。
「ジョウイ、寝てるの?起きなよ」
 布団をひっぺがしてみると、そこには全裸のジョウイが。
 はじめはきょとんとしていたユーナクリフですが、すぐに楽しげな笑みを浮かべました。
「ジョウイってば……」
「……う、うーん?一体なにが……え?ユノ?」
「君の方から誘ってくれるなんて嬉しいよ、ジョウイ♪」
「えぇ……!?」
 わけがわからずパニックしているうちに、ユーナクリフはすっかりやる気満々でベッドに入ってきます。
「だからなんでそうなるんだよ――――!?」
 その夜、ユーナクリフは自宅には帰らなかったそうです。
「どうやら首尾よくいったみたいね、ユノは」
 と、家ではお姉ちゃんが呟いていましたとさ。
 

 おしまい。
 
 
 
 
 
 

 


 …最強って、グレミオ?
 
 

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