巡り来る季節が、また一周する。
一年の始まりと終わりの境目で、僕たちは最初で最後のキスをする。
そっと、重なっていた唇が離れた。
窓の外から爆竹の音と歓声がどっと入ってくる。この地方では、新年は派手に祝うものらしい。
深夜というのに浮かれた盛り上がりようで、祭りに参加する者は楽しいだろうがそうでない者には騒音に近い。キャロでは家族が静かに祝うものだった。ジョウイは苦笑しながら窓を閉めた。
振り返ると、ベッドの上で幼馴染の少年が正座している。
「あけましておめでとう」
「おめでとう、ユノ」
「今年もよろしく」
「こちらこそ」
畏まってお決まりの挨拶を交わし、目を見合わせると、自然と笑いがこぼれる。
毎年の約束事として繰り返してきた言葉は、今年、少し意味を変えた。
くぎりを越す夜に一緒にいられるということ。それはつまり、今日と明日が互いの傍にあるということだ。
「去年のお正月は」
身体をずらしてジョウイの座る所を作り、ユーナクリフは目を伏せた。
「面白かったけどね。飲んで騒いで、城の皆はお祭り好きだから……でも、やっぱり……」
寂しかったよ。
言葉にならない訴えをジョウイは両手を広げることで受け止めた。
「ジョウイはどうだった?」
「僕かい?去年は……とにかく忙しくて、眠るのも必要最低限でね。そうしたら部下に怒られたよ。『正月くらい休んでも罰は当たらない』って」
赤毛の将軍の口調を真似して、胸の奥がずきりと痛む。
あれからほんの一年で世界はこうも変わるのだ。
腕の中の、この身体が温かいということ、それだけで涙が出そうになる。寄り添って過ごすというだけのことが、なんて当たり前でなんて大切なのだろう。
「君のことだから、そう言われても結局休まなかったんだろ」
呆れた声音に反論もできないので、ジョウイは曖昧に咳払いをする。案の定の答えにユーナクリフはそれを軽く睨みつけた。
「だったら今年はちゃんと寝よう。今日くらい寝坊してもナナミだって怒らないよ」
「そうだね……」
ジョウイは緩やかに微笑んで額をユーナクリフの肩に乗せた。この温もりがあれば眠れる。ただ休息のためだけの睡眠ではなく、明日を迎えるための眠りを。
その背を一度強く抱き締めて、ユーナクリフは身を離した。
「じゃあ、その前に」
顔を上げたユーナクリフは緊張をみなぎらせていた。それを受けて、ジョウイは表情を引き締める。
「……やっぱりやるのかい?」
「当然」
ユーナクリフは胸を張って腕を振り上げた。
ジョウイも負けじと、さっと身構えた。
「姫はじめジャンケンだ!!」
そう。恋人たちにとって新年と言えば、その年最初の愛の営み……いわゆる姫はじめ。
ところがそれが男同士ともなれば、どちらが女役をやるかという、新年から切実な問題が持ち上がるのである。
「出っさなきゃ負けよ、ジャンケン―――」
外では今だ新年を祝う歓声が止まないでいるが、そんなものはそっちのけ。
少年たちは、この上なく真剣であった。
「ほい!!」
結果、どうなったのか―――
それは多分……あなたの期待通りでしょう。
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