彼の秘密
〜腐れ縁sの冒険〜



 
 
 
 
 


 ツインホーン軍の腐れ縁、フリックとビクトールは悩んでいた。
 別に大したことではないのだが……現在とてもとても気になることがあるのである。
 それは軍議が終って各人が思い思いの場所へと散ろうとしていたとき。二人は、目安箱の前で難しい顔をして佇むユーナクリフを見つけた。
 城内の者達の声を少しでも多く聞き、チームワークに活かそうという目的の元に設置された目安箱。どの程度成果を上げているのかはわからないが、リーダーはなかなかに楽しんでいるようで、前を通りかかれば必ず中身を確かめている。しかし今回の投書は何か彼を悩ますようなことが書いてあったらしい。
「おう、どうしたんだユーナクリフ?なんか変なことでも書いてあったのか?」
「うーん……なんというか……なんなんでしょうねこれ……?」
 フリックとビクトールは興味半分でつい覗き込み……読んでしまったのだ。その内容を。
 
 

『おまえの秘密を知っている』



 思わず固まってしまった二人の前で、当の本人は首を捻った。
「……僕、知られて困るような秘密って、あったかなぁ……?」
 それからが大変だった。いや、別に何ということはないのだが、気になって仕方がないのだ。
 人間、誰しも他人に知られたくない秘密の一つや二つや三つくらいあるものだ。そしてそういうものほど他人の興味を引くものもないのである。
 以来、二人は顔をつき合わせて悩んでいる。
「あいつが味オンチなのは有名な話だよな」
「……あのナナミの料理を平気で食べられるのはあいつくらいだからな」
 フリックはナナミの料理を試食させられたときのおぞましい記憶に鳥肌を立てた。アレを「おいしい」と言って食べられるユーナクリフの舌の構造が不思議でたまらない。
「方向オンチなのも有名な話だな」
「おかげで俺らはいつも苦労してるじゃないか」
 先頭をリーダーに任せて歩いていると同じところをぐるぐると回っていたりする。休憩場所を探そうとしていきなりボス戦に突入する。いつまでも軍議に現れないと思ったら、城内で迷っていた……などなど。なにより迷っていても本人の足取りがしっかりしているように見えるのがいちばんの問題だ。
「ジョウイに惚れてるってのも今更だしな」
「……そうなのか!?」
 ビクトールは呆れたようにフリックを見た。
「知らなかったのかお前は……あいつがジョウイと親友の間柄だったのを知ってる奴なら大抵知ってるぞ。っつーか気付く」
 シュウの配慮でユーナクリフとジョウイが幼馴染であることは固く口止めされてはいたが、ジョウイとて以前は傭兵隊の砦にいたことがある。知っている者は知っているのだ。
「そ、そういえば……金髪で超美人の『彼女』がいるらしいって、シーナが言ってたような……」
 当然ながらシーナはジョウイに会ったことがない。ビクトールとフリックは顔を見合わせて乾いた笑いを交わした。
「そうすると、あいつに知られて困る秘密というのはあるのか?」
「秘密なんだから、俺達が知らないんだろう」
 そう言われれば、余計に気になる。
 二人は調査の基本、聞き込みをすることにした。情報提供者を求めて本拠地を一日歩き回った。
 

提供者A:「おんしらが知らないようなことをわらわが知っているわけがなかろうが。馬鹿者」
提供者B:「僕のほうが知りたいです!な、なにか知ってるなら教えてください!伝記に書きますからっ」
提供者C:「えっとぉ……キャロにいた頃の話でいいの?色々あるけど、どれが秘密なんだかわかんないよ」
提供者D:「……どうだっていいよそんなこと……大人気ないね、君たち。ヒマなの?」
提供者E:「そんなことよりフリックさぁぁぁぁん!!わたしの作ったお弁当食べてくださいぃぃぃぃぃ!!」
 

 終日こんな調子である。陽も落ちる頃になって、二人はぐったりとして部屋に戻った。
「……よくわかった。俺達に探偵業は向いていない」
 フリックが大きな溜息とともに言うと、ビクトールは重々しく頷いた。
「そうだな。ここはやはり、エキスパートに頼むのが筋ってもんだよな」
 我らがハードボイルド、リッチモンドさんの出番である。日頃ユーナクリフが彼に頼んで様々な情報を得ているというのも有名な話。リッチモンドだってフリーの探偵だ、俺達が調査を依頼して何が悪い!
 二人は気合を入れ直して兵舎の階段を降りた。……どうせならその集中力は、もっと他のところに取っておいてもらいたいものだ。
 
 
 

 ……結局のところ、二人はリッチモンドからも大した情報を得ることはできなかった。
 しかしそれ以降、腐れ縁sはリーダーの秘密を探るなんてことはしないことにした。リッチモンドが半泣きで漏らした言葉に、それが愚行であることを悟ったからだ。
「あいつにあるのは知られて困る秘密なんかじゃない。知って困る事実ばかりだ」
 彼の名言は、伝記に取り入れられたとか、入れられなかったとか……。
 
 


探偵シリーズでもやるつもりだろうか、自分?
シーナが言った「金髪で超美人な『彼女』(笑)」についてはそのうち書く。かも。
 
 

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