Blind Memories








 私は何者なのだろう?

 硬直し引きつる指先。腕を上げていることさえままならない。
 引き鉄は重かった。重すぎた。

「何をしているんだ!撃て!」

 耳鳴りの合間に緊迫した声が反響する。
 眼前で蹲っていた男が痛みに呻きながら上半身をひきずる。その先には黒光りする拳銃があった。
 あの拳銃を取り落とさせるところまでは簡単だったのだ。あっけないほどに。
 押さえつけていたはずの腕は力を失い、あっさりと振りほどかれてしまった。

 撃たなければ。
 撃たなければ、こちらがやられる。
 すべての事象が緩慢に感じられた。拳銃が持ち上げられ、禍々しい先端がこちらを向く。
 それほど震えていては、照準などあったものではないだろう。哀れな薬物中毒者だ。だが距離から言って的が外れる確率の方が低い。
 撃たなければ、という一言に支配され、避けようと考えることすらできなかった。
 汚い罵言と共に引き鉄が引かれる。
 高い銃声が響く瞬間に飛び込んできた背中を、ブルースは呆然と見つめていた。


***


 ブルース、という名前以外に自分自身を表すものは何もない。
 その名前すら、初めて目覚めた時にジェイソンがくれたものだった。
「……すまない」
 傷口の縫合を終え、包帯を巻きながら、ブルースはぽつりと言った。
 他者の身体から弾丸を摘出する自分の手際は驚くほど良かった。こんな技術をどこで身に付けたのだろう。
 白い布に包まれた腕をさすり、ジェイソンは顔をしかめた。
「あんたのせいじゃない。元々あんたは銃が苦手だったんだ。記憶をなくしても、そういうのは残るんだな」
 苦手などというレベルの話ではなかった。撃つ意志はあったのに、全身が拒否したのだ。
「なにか……よほどのトラウマがあるのだろうか?」
「あったのかもな。あんたはあまり自分のことを話さなかったから。とにかく銃を触りたがらなかった」
 使ったことはあったはずだ。使い方も構造も解っていた。
 いつだったかジェイソンが部屋中の武器庫を見せて「必要な時は好きに使え」と言ったことがあった。ブルースがそれほど銃を嫌っていたと知っていたなら、なぜ何も警告がなかったのだろう。
 不自然な気はしたが、核心的なことはいつもはぐらかされてしまった。過去の自分について訊こうとすると、ジェイソンは時折曖昧な嘘をついた。
 だがブルースは黙って受け入れた。
 記憶を失った自分にとって、ジェイソンは唯一の拠り所だ。身体中にある傷痕や痣、銃創を見ると、安易に警察を頼れるほど善良な人間だったとはとても思えない。
 一体自分は何者だったのか。
 身体は鍛え上げられ、危険への反応も速い。各種格闘技の動きが染み付いている。化学、医療、社会学などの豊富な知識があり、論理立てて思考することに馴れている。言葉遣いはゴッサムの中上流階層の人間のようだが、その気になれば各地の訛りで話すこともできるし、何カ国もの言語を理解することができる。
 客観的に考えて、ブルースは只者ではなかった。
 初めの記憶は降り注ぐ冷たい雨の中。汚い路地の片隅に横たわり、痛みに呻いていた。
 どうやら高いところから落ちたらしく、数箇所の骨折と打撲傷を負い、動くこともままならなかった。
 鉄錆の味と耳鳴り。それから意識を失った。
 次に目覚めた時は小さな病院のベッドの上だった。
 傍らには黒髪の青年が立っていて、険しい表情でこちらを見下ろしていた。
「君は誰だ?」
 掠れた喉でそう尋ねた瞬間、彼の名前どころか自分自身のこともまるでわからなくなっていることに気がついた。
 いわゆる記憶喪失になっているようだと告げると、青年は唖然とした。それまでとうってかわって幼い表情がのぞき、ブルースは胸のどこか奥の方に痛みを感じた。
「何も覚えていないのか?俺のことも?バットマンのことも?」
「バットマン……とは、なんだ?」
 聞き覚えがあるような気もするが、靄に包まれたようにはっきりしない。
 青年はしばし言葉を失っていたが、やがて力なく笑い出した。
「ひどいな、ブルース。俺はあんたの長年のパートナーだったろ。それも忘れちまった?」
 パートナー。何のパートナーだろう。ビジネスの、だろうか。だとしたらどんなビジネスだったのか。青年のまとう剣呑な空気からして、少なくとも表通りでかっちりとスーツを着て歩くようなものではなさそうだ。
 青年はジェイソンと名乗り、怪我のために身動きの取れないブルースを車に乗せて連れ帰った。退院の手続きなどはどうしたのか見当もつかないが、あるいはそもそもが違法に営業している病院だったのかもしれない。
 目立たない安アパートの一室で、ジェイソンは献身的にブルースを看病した。リハビリも根気よく付き合った。
 松葉杖でアパート内を移動できるようになった頃には、外は敵が多くて危ないから独りで出歩くなと言われた。
 ジェイソンは独特の正義感を持ってヴィジランテのような活動をしていた。パートナーというのであれば、ブルースも彼と同じように生きてきたのだろう。
 ブルースの過去について、ジェイソンが語ったことはあまり多くはなかった。
 幼い頃、路上で車のタイヤを盗んで暮らしていたジェイソンを、ブルースが拾ったのだという。
「私は身寄りのない小さい子供を施設にも預けず、戦い方を教え込んで、ヴィジランテに育て上げたのか」
 思わず眉を顰めると、ジェイソンは大笑いした。
「ほんとクレイジーだよな。でも俺はそれで良かったんだ。それで良かったんだよ」
 ブルースがどのような出自で、どのような経歴で現在に至っているのかは、知らないと言い張られた。
 普段のことについては、適当に紡がれた嘘が多かった。
 どんな生活をしていてどんなものを食べ、何を着てどう時間を消費していたのか。それらはすべて肉体に表れるものだが、教えられた生活と自分の身体はどうにもちぐはぐだ。それにパートナーならある程度の役割分担はしていただろうが、ジェイソンは誰かに頼るよりも独りで行動することに慣れている。
 粗雑に振舞うことはあっても、ジェイソンは緻密に計算する頭脳を持っていた。本気で騙そうと思うならもっと計画的に行動するはず。
 嘘が見抜かれることに頓着していないのだ。ブルースにはそれが不思議だった。
 ジェイソンの態度は矛盾に満ちていて、ブルースを混乱させた。わざと思い出させないように嘘をついたり、知らない、わからないと言い出したりするくせに、時折ブルースが忘れていることに苛立ちを見せることもある。
 どこからが虚構で、どこからが本当なのか。あちこち破綻した嘘は、真実を求めたがるブルースの思考を苛んだ。論理立てて追求することもできたが、そうしなかった。ジェイソンを問い詰めて、傷を負い弱っている自分に与えられた安全な隠れ家を失うことは避けたかったからだ。
 だからジェイソンに直接尋ねることはせず、ある日彼が外出している間にインターネットを経由して情報を収集した。警察署のセキュリティをかいくぐって指紋の照合をしても、該当は無かった。
 バットマンの情報も探したが、都市伝説の類なのか詳細は闇に包まれていて、自分とどう繋がるのかは解らない。
 手がかりが見つからないことに困惑もしたが、ブルース自身が、心のどこかで躊躇っていることに気がついた。
 ジェイソンが隠そうとするならば、都合の悪い記憶だから隠すのだろう。一体どう都合が悪いのか。本当の自分はどんな人間だったのか。本当は彼とどういう関係だったのか。最悪の想像をすれば、実は血も涙もない人間で、ジェイソンが幼い頃から恐怖で支配してきた可能性だってある。だとすれば、自分が記憶を失くしたと知ったときどれほど安堵したことだろう。……彼が見せる親しげな態度からして、それは無いと結論づけたいところではあるが。少なくとも可能性はある。
 都合の悪い記憶。ならば、思い出したらどうなってしまうのだろう。

 ジェイソンを失うことになるのかもしれない。

 思い至って、何か得体の知れない絶望感に襲われた。
 キーを打つ手が強張り、指先から血が凍りついていくようだ。
 ブルースはひどく動揺して、ジェイソンの気配が無い室内を見回した。素っ気無いデザインの時計に目が留まる。彼はいつ帰ると言っていただろうか。今日は少し遅くなるかもしれないと聞いた。だが、遅すぎないだろうか?
 遅すぎる。間に合わない。遅すぎる。
 口の中がからからに乾いてゆく。
 自分がパニックを起こしているのだと理解はしていたが、混沌とした過去から引き起こされる恐怖に抵抗できなかった。
 通信回線を開き、震える声で呼びかける。
「ジェイソン……」
『ブルース?どうした、何かあったのか?』
 力強い青年の声に、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「ジェイソン、今どこにいるんだ?」
『ゴッサム港の12番倉庫。ちょっと手間取っちまったんだ。すぐに終わらせて帰るよ』
 わかった、と言いかけたとき、轟音が響いて声が歪んだ。
「ジェイソン!?」
 応答が無い。ノイズに紛れてぶつぶつと不明瞭な音が続く。

 爆発音。燃え上がる倉庫。瓦礫に埋もれた小さな身体……

 ブルースは弾かれたように立ち上がった。椅子が倒れるのも構わず大股で部屋を横切る。
 クローゼットの奥に隠された武器庫を開け、大振りのナイフといくつかの薬剤が詰まったカプセル、医療キットを取りだした。少し躊躇ってから、銃をホルスターごと引っ掴む。
 アパートから数ブロック離れた車庫には、バイクと車が一台ずつ。ブルースは迷いなく車を選んだ。ジェイソンが負傷していたときのためだ。
 焦燥に駆られながらも、的確なハンドル捌きで倉庫までの道程を疾走した。ゴッサムの街に張り巡らされた道の一本一本を、ブルースの目は見分けることができた。
 炎上する倉庫の裏手に車を停め、なりふり構わず飛び出す。微かに緊急車輌のサイレンが聞こえる。
 逸る心臓に急かされ、がむしゃらに走った。炎上しているものとは隣り合った別の倉庫の屋根に見間違えようのない人影を発見し、足が止まる。
「ジェイソン……!」
 無事でいる。生きている。
 ブルースは嵐のような感情に圧倒されて立ち尽くした。
 一方ジェイソンは、あるはずのない姿を見つけて愕然としていた。
「ブル……な、なんで来たんだ!?」
 慌てて屋根の端に駆け寄り、壁の配管を足場に飛び降りる。
 ブルースはまだ夢うつつの気分で、引き寄せられるように踏み出した。ジェイソンの存在感はとてもリアルに思えるが、実際に間近で確認するまで安心できなかった。幻影を見ているわけではないとこの手で確かめたかった。
 だが数歩も進まぬうちにジェイソンの鋭い警告が響き渡った。
「後ろだ!あぶない!」
 空を切る気配にはっとして身を屈めると、額すれすれを鉄パイプが通り過ぎていった。
 振り返った先には皺だらけのコートを羽織った痩せぎすの男がいた。鉄パイプを握り締め、こけて色あせた顔の中で目だけがギラギラと光っている。
 ブルースの身体は頭で考えるよりも先に動いた。再度振り上げられた腕に手刀を打ち込んで武器を落とさせる。足払いをかけると男は無様に倒れた。
 情けない悲鳴をあげ、逃げようとする相手を追うことはしなかった。そこに誤算が生じた。男は突然くるりと振り返り、懐から銃を取り出したのだ。
 ブルースの判断は速かった。銃口がこちらを向く前に一気に間合いを詰めると、男の腕を捻り上げ地面に引き倒した。重い音を立てて銃が転がり落ちる。
 さて、こいつをどうするべきだろうか。ただ解放すればまた襲い掛かってくるかもしれない。今までの自分ならどうしていただろう。気絶させるか、縛りあげるか、それとも……ブルースは常からジェイソンの言っていたことを思い出した。
 悪党というものは、徹底的に潰すべきなのだ。情けをかけるなど愚か者のすること。こいつらを見てみろ、刑務所やリハビリ施設に入れたところで、真っ当になって出てくると本当に思うのか?こいつらを野放しにせいでどれほど犠牲者が増えたと思う?だからするべきことをする。簡単な話だ。
 ブルースはホルスターから銃を抜いた。こめかみに突きつけてやると、男はひっと息を呑み、全身を震わせた。
 安全装置を外し、引き鉄に指を掛ける。そして――――

 ブルースは撃つことができなかった。


***



 明け方、浅い眠りの中でブルースは悪夢を見た。
 人気のない通りを少年が走ってゆく。
 軽快な足取りとは裏腹に、周囲は薄暗く汚れていた。
 かつて瀟洒な住宅街だったその通りは今やすっかりうらぶれて、ゴッサムの治安の悪さを象徴する場所となった。
 クライム・アレイ。痩せた少年の後姿はジェイソンだろうか。
 また誰かの車からタイヤを盗みに行くのだろうか。あの利発な少年には、もっと広い世界を知る権利が、未来への可能性を得る権利があるはずだ。
 呼びかけようとしたが、声が出なかった。
 ジェイソンは暗がりに踏み込み、雷に打たれたように動きを止めた。その先には毒々しい緑の影が立ちはだかっていて、狂った笑い声が虚ろに響き渡った。
 なんてことだ。ブルースは地面に貼りついた足を動かそうともがいた。
 逃げろ、ジェイソン。そいつは危険だ。逃げてくれ。
 緑の影は手に持ったバールを少年に向かって振り上げた。
 やめろ!頼むからやめてくれ!
 必死に叫ぶうち、ブルースは自分の右手が銃を握っていることに気がついた。赤く血に濡れた手で、ぬめるグリップの感触がやけに生々しい。
 撃ちたくもないのに指が勝手に動いた。
 空気を引き裂く破裂音。ゆっくりと倒れる二つの影。
 闇は赤く染まり、ばら撒かれた真珠が血に呑まれた。
 力なく投げ出された小さな手。急速に体温を失ってゆく肌。助けられなかった。何もできなかった。何も。
 喉の奥が搾り出すような慟哭に震えた。

「ブルース……ブルース」
 冷たい汗にまみれて、ブルースは目を覚ました。
 自分を揺り起こした青年の顔をまじまじと見つめる。
「大丈夫か?ずいぶん魘されていたな」
 ジェイソン。生きていて、ここにいる。これは夢ではないのか。
 ブルースはそっと手を伸ばし、彼の頬の感触を確かめた。確かな温もりを感じて目頭が熱くなった。
「何か思い出したのか?」
「よく……わからない」
 過去の記憶だったのか、倉庫での経験からきた悪夢だったのか、判別はつかなかった。
 髪を撫でてやると、ジェイソンは目を細めた。泣き出しそうな顔だ、と思った。ジェイソンが時折この顔で見つめていることに、以前から気づいていた。
 なぜそんなに切なそうな目をするのだろう。自分は何を忘れているのか。悲しませたくないのに、どうすれば良いのかわからない。
「そんな顔をしないでくれ」
 自分の心を写し取ったような言葉がジェイソンの声で紡がれたことに、ブルースは驚いた。
 ジェイソンも同じように指を伸ばして、壊れ物を扱うかのような慎重な動きでブルースの頬に触れる。
「なあ、そんな風に見ないで。耐えられなくなる」
 何を耐えている?
 問おうとした唇は、滑るように近づいたジェイソンのそれで静かに塞がれていた。
 反応を探りながら繰り返される触れるだけの口づけ。ブルースが顎を浮かせて応えると、徐々に深く激しくなってゆく。
 ジェイソンはブルースの肩をベッドに押し付けると、もどかしげブランケットを引きはがした。
 乱れた吐息の下、ブルースは素肌を這う熱の感触に喉を鳴らした。
「パートナーというのはこういう意味も含んでいたのか」
「……そうだ。ああ、そうだよブルース」
 また嘘かもしれないとは思ったが、それでも構わなかった。
 ただもうジェイソンを失いたくなかったのだ。この子を二度とは失いたくないと夢の中の自分が叫んでいた。つまりは過去に一度失うか、失いかけたかしたことがあるのだろう。どんな形でかはわからないが。
 今ジェイソンは生きていて、この腕の中にいる。思い出せない記憶よりも大切な事実だった。


***


 回復の早さはさすが若者だ。ブルースはベッドの中からジェイソンのむき出しの背中を眺めた。感情の赴くまま抱き合った結果、全身が疲労に包まれていて起き上がる気になれない。
 予想はしていたことだが、ブルースの身体は男と交わることに馴れてはいなかった。
「しばらくこの街を離れようかと思うんだ」
 ジェイソンは振り向くと唐突に言った。
 ブルースはゆっくりと上半身を起こし、ジェイソンの向こうにあるモニターに目を凝らした。電子機器のビープ音に呼ばれてジェイソンが確認しに行ったのだ。映っているのは倉庫の焼け跡だった。
「何かあったのか」
「昨夜の件でちょっと厄介な連中に目をつけられちまってさ」
 口調は軽かったが、語尾に微かな緊張が感じられた。交歓の余韻に満たされていた心が急に萎んでいった。
「私のせいだな」
「いや、遅かれ早かれ見つかるだろうとは思ってたんだ」
 モニターの中で数人の人影が動いている。暗い背景に紛れてよくわからないが青っぽいストライプのようなものが見えた気がした。
 ジェイソンは鼻を鳴らしてモニターを切った。
「まあ丁度いいんじゃないか。あんたの記憶もいつ戻るかわからないし、俺の腕もこんな状態だし。しばらくはゴッサムを出て静かにしていようかと思う」
 包帯の巻かれた腕をさすりながら、ジェイソンはベッドに戻ってきた。
「どこに行こうか。南の方はどうかな?昨日潰した組織のやつら、南米にコネクションがあるみたいなんだ」
 男二人の体重でセミダブルのベッドが軋んだ音を立てる。
 無遠慮に乗りかかってくる大きな身体を受け止め、ブルースは呆れた声を出した。
「怪我が治るまで大人しくすると言ったばかりじゃなかったか?」
「なにも明日からドンパチ始めるつもりじゃないって。調査期間だって必要だろ」
「大きな組織なら、作戦も必要だ」
 ジェイソンは肩を揺らして笑った。
「策はあるさ、いつだって。世界最高の師匠に教わっていたんだから」
「君はワーカホリックだな」
「あんたがそれを言うとはね」
 張りのある筋肉に覆われた腕がブルースを抱え込む。寄り添ってベッドに転がっていると、ほどなくしてジェイソンの寝息が聞こえてきた。
 半分引き開けられたブラインドから夕暮れ時の街が見える。
 裏通りに立ち並んだアパートと、その向こうに聳える摩天楼。低く空を覆う雲。
 ゴッサムはそ知らぬ顔でブルースの過去を懐に隠してしまっていた。
 いつか思い出して帰ってきたとき、この街はどんな姿で自分を迎えるのだろう。寛容さと親愛を見せてくれるのか、あるいは牙を剥かれるのか。
 自分の過去が、この子を傷つけるようなことがなければいいのだが。
 起こさぬようそっとジェイソンの髪に口付け、ブルースは束の間の眠りに身を委ねた。

 



 

12.07.07