バットマンの爆弾発言はいつだって人を飛び上がらせるものだが、ごくごく稀にある、個人的な内容の爆弾発言だったりすると、更にとんでもなく破壊力が大きかったりする。
それはもう、周囲にいる人間の生き方を大きく変えてしまうくらいの威力だ。
スーパーマンことクラーク・ケントの場合、影響はまず繊細な香りのお茶を吹き出すところから現れた。
バットマンことブルース・ウェインは嫌そうな顔で差し出そうとしたデータディスクを引っ込めた。
「し、失礼!」
慌ててナプキンで飛び散ったお茶を拭き取り、改めて問い直したのだが、情けないくらい声が裏返ってしまった。
「オリーと寝たことがあるって!?本当かい?」
「昔の話だ。そんなに驚くようなことか?別にこの州では違法なわけではないし、性犯罪を研究していく過程で私には経験が必要だと判断したんだ」
クラークの動揺っぷりをよそに、ブルースはいつものしかめっ面と冷静な口調を保っている。
「あ、あっさりしてるね……普通は、その、色々と抵抗があるものだろう」
「ブルジョワジーの性生活についてゴシップ欄の記者と話したことはないのかい?同性愛くらい可愛いものさ」
路地裏からサイバーネットワークまで、街のあらゆる暗部で戦い続けてきたバットマンにとって、性犯罪を研究し対抗策を練ることは避けて通れない問題だった。その研究成果の一部をメトロポリスでも活用できないかと、スーパーマンは相談を持ちかけてきたのだ。
お茶がきれいに拭き取られたことを確認して、ブルースは研究レポートを収めたデータディスクを再度差し出した。
「ありがとう」
目的のものは手にしたのだから、あとは飛んで帰れば良いだけなのだが、クラークはどうしても話を蒸し返さずにいられなかった。
「……それにしても、どうしてオリーだったんだ?君の周りには他にも、ええと……身近に相談できる男がいるじゃないか」
胸騒ぎがして止まらない原因は分かっているのだ。
ちくちくと胃を内側から刺す嫉妬。目の前の男にとって残酷な話をしているというのに、彼はまったく気づいていない。
ブルースの眉間のしわが深くなる。
「私はそれほど悪趣味に見えるのか?家族をセックスの対象にしろとでも?ディックなど当時の年齢から言っても問題外だ」
「そういうことじゃなくて……」
クラークはがくりと肩を落とした。『身近で相談できる男』の範囲内におまえは含まれていないと言われているようで、気が滅入ってしまう。ヒーロー活動のことを別にしたとしても、お互いにかなり親しい間柄だと自負していたのに。
「つまり……その……他にも選択肢はあると思わなかったのかい?」
「他にも、とは?」
「だから……」
煮え切らない返事にブルースは苛立ちを募らせた。
「はっきり言え」
厳しい声音に思わず背筋が伸びた。
「他の選択肢とは何だ」
「たとえば、僕とか」
ああ、言ってしまった。叱られる寸前の子供のように、口の中が酸っぱくなる。
ブルースはまじまじとクラークの顔を凝視した。クラークは気まずくて、何の変哲もないテーブルの角が気になるふりをした。うなじの毛が逆立ち、目元がじんわりと熱くなっていることに気づかないでいてくれると良いのだが。
「意外だな。オリーを選んだのは、彼ならこういう提案に抵抗なく応えてくれると考えたからだ。君に相談したら、私の考えを納得するまでに色々とうるさそうだったのでな」
「ひどいな」
穏やかな苦笑を装ってはみたが、実際にその状況になっていたら、まさしく彼の予想通りだったのだろう。降ってわいた幸運を信じられずに、ブルースがうんざりして踵を返してしまうまで真意を問い続けたに違いない。
「君は、僕が同性愛は反自然的だとか、処女性が大事だとか言う古風な男だと思っているんだろう」
「まさか。だが特に発展家でもあるまい。私のセックスライフに関して、君は批判的な方かと思っていたが」
「いや、それは―――」
それはまあ確かに、プレイボーイという評判に苦々しい気持ちがないわけではなかったが、相手が女性のみだと信じ込んでいたこともひとつの原因だ。同性でも対象内であるなら話は全く変わってくる。
自分にだって期待する資格があるということなのだから。
急に視界が開けたような気がして、息を呑んだ。
「そんなことは……ないよ」
ひょっとしたら。クラークはごくりと喉を鳴らした。もしかしてたった今、二度目のチャンスが目の前に転がってきたところなのではないだろうか?
世界中に祈るような気持ちでありったけの勇気をかき集める。ああ、まったく、こんな時にスーパーパワーなんて役に立ったためしがない。
ブルースの目が興味深そうに光っている。
クラークは紅茶のカップを割ってしまわないようことさら慎重に持ち上げ、唇を湿らせた。
「試してみるかい、ブルース……?」
***
事を決断した後のブルースの行動には迷いがなかった。
さっさと地上に上がると豪壮な客用寝室のひとつにクラークを引っ張ってゆき、続きのバスルームに放り込む。
「準備しておく。シャワーでも浴びてろ」
命令は簡潔だったが、クラークの頭の中では混乱が渦巻いた。
準備ってなにをどこまでする気なんだろう?ありとあらゆる妄想が蒸気の中にちらついて、シャワーを浴びるというだけの行為が拷問に思える。
恐ろしく肌触りの良いローブを羽織り、オバケ屋敷を探検する子供みたいにそうっと寝室のドアを開けたときには、ブルースの姿はなかった。
ほっとしたような、がっかりしたような気分で、クラークは豪奢な天蓋付きベッドの端にちょこんと腰掛けた。部屋の調度品はどれも品がよく、落ち着いた雰囲気を醸し出してはいたが、クラークはとてもくつろぐ気にはなれなかった。
そわそわと室内を見回すうち、サイドテーブルの上に目が止まった。いや、バスルームを出た時からもう気にはなっていたのだけれど、その上にあるものの正体を確かめるのが怖かったのだ。
高級感溢れる箔押しの箱と、ガラスの小瓶。クラークは手を伸ばす前に本能的に透視していた。
ビニールの薄い袋が束になっている。コンドーム。すると隣の小瓶の正体も自ずと見当が付く。
準備。準備、ね。
ますます速くなる鼓動とは裏腹に、気分が沈んできた。現実感がこんなときに一番要らないものを伴って襲ってきてしまったのだ。つまり人によっては道徳心とか、ことなかれ主義とか呼ぶ厄介者を。今ならまだ引き返せる。心を伴わぬ身体だけの関係なんて、本当に良かったのか……なんて。そこの窓から逃げ出してしまいたい。
先刻ブルースが頷いたときに熱烈なキスのひとつでもしておくべきだった。でなければウィスキーでも飲んで酔っ払っておくべきだった。これだからいつまでもボーイスカウトと呼ばれるのかもしれない。
泥沼の這い上がれない淵まで落ち込む寸前に、廊下側のドアが開いた。
スリッパの軽い音を立てて入ってきたブルースは、他に何ひとつ身に着けていなかった。
頭の中で渦巻いていた思考が端から真っ白に塗りつぶされていく。
「ああ、ブルース」
クラークは目前に現れたブルースの身体をうっとりと眺めた。
「とてもきれいだ」
ブルースは返す表情を決めかねている。
「君みたいな大男に言われるとなんだか妙な気分になるな」
「そうかい?まるで……ギリシャの彫像を見ているようだ」
ヒトの肉体の美しさを高らかに謳いあげる芸術品だ。
刻まれた無数の傷痕も肌の輝きを損なうことはなく、久遠の時に想いを馳せる学者のように、クラークはひとつひとつの傷痕が語る歴史を見た。
「詩人だな。君はそこに性欲を感じるのか?」
「感じることもあるよ、もちろん」
相手が君ともなればそれはもうてきめんに。
ブルースは足を組んでベッドの端に腰掛けた。恥ずかしげもなく堂々と肌を晒す王者然とした態度には感心してしまう。その姿があまりに自然体なので、クラークにはかえって手を伸ばすことが躊躇われた。
我ながら情けないが、ブルースの前でどう振舞えば良いのか分からない。
友人として?恋人のように?けれど友人とセックスしようとは思わないし、彼はまだクラークの想いを知らない。
無意識のうちに鋭敏な聴覚がブルースの鼓動を拾っている。彼にしては少し速い。
余裕しゃくしゃくに見えて、彼だってやはり緊張しているのだ。クラークは動揺を押し隠そうと下唇を舐めた。今はもう少し大胆に行動すべき時だ。
「君は?」
掠れかけた声で尋ねると、薄青の瞳が問いを返してくる。クラークは立ち上がり、もつれる指で腰の帯を解いた。
「君は僕の身体を見てどう思う?」
既に興奮を隠そうにも隠しきれなくなっている下半身を見せることには抵抗があったが、思い切って足元にローブを落とした。まったく憎たらしいことに、ブルースは顔色を変えもしなかった。
この鉄面皮め。心拍数は更に上がっているくせに。
「そうだな……」
ブルースは考え込むように指を顎に当て、クラークの頭からつま先まで目を走らせた。クラークは落ち着かなくもじもじと姿勢を変えた。
「身長約190cm、体重100kg前後、白人男性、体毛は黒、目は青、均整の取れた体つき、手足は大きめ、筋肉は非常に発達している。見た限りでは健康体」
「そういうことじゃなくて!」
書類を読み上げるように淀みない言葉を慌てて遮る。ブルースはわざとらしく眉を上げたが、気を悪くするどころか明らかに面白がっている様子だ。
「解っているくせに。君がどう感じたかを訊いたんだよ」
唇を尖らせると、ブルースの方ではにやりと歪めてみせた。
「端的に言って、君の外見はとても美しい」
思いも寄らなかった率直な賛辞。クラークは目を丸くした。
次の瞬間、ぐいと腕が引っ張られたかと思うと頭からベッドに突っ込んでいた。だだっ広いキングサイズの上等なベッドは、クラークの巨躯をも難なくバウンドさせて包み込む。
止まっていた思考がやっと動き出す頃には、ブルースはクラークの上に馬乗りになっていた。
「そして中身は救いようのないロマンチストだ。この期に及んでくだらないお喋りばかりをする」
敏感な筋を長い指になぞられ、クラークは開きかけた口を閉じた。だが、次にはしっかりと彼の手に握られて悲鳴を上げかけた。
「可哀そうに、君の息子はこんなに立派に育って役目を果たそうとしているっていうのに」
「ぶ、ブルース」
抗議するべきなのか、謝るべきなのか……それとも嘆願するべきだろうか。触れられているだけで欲望が膨れ上がって爆発しそうだ。
急くな、急くな。今だけはスーパースピードなんてお呼びじゃない。なんとか気を紛らわせようと必死に頭で数を数える。
「で、どちらにしたい?」
「は?」
「男役(タチ)か、女役(ネコ)かだ」
「な……なんか君が言うと生々し……」
「どっちなんだ?」
クラークは泣き出したいような気分で、弱々しい声を絞り出した。
「で、できれば……男役で」
「いいだろう」
ブルースはあっさり頷き、クラークに覆いかぶさってきた。触れ合った所からぴりぴりと電流のように痺れが走る。クラークは浅く早くなる呼吸を意識した。
おずおずと差し出した大きな手がブルースの背に回るよりも早く、柔らかく温かな唇が重ねられた。甘美な官能の波が打ち寄せ、クラークはたまらずブルースを抱きしめて貪るようなキスを返した。
緊張感が高まる。
緊張?いや、それだけじゃなくて。
「興奮しているんだね、ブルース」
ブルースの欲望が頭をもたげて腿のあたりを刺激している。
「当たり前だ。興奮しないようなセックスに何の意味がある?」
「ごもっとも」
笑おうとしたところに喉元を甘噛みされ、思わずはっと息を呑んだ。
顎を引くとブルースと目が合った。鎖骨から胸元へと移動しながらも執拗に視線を外そうとしない。
挑発されている。そう思ってぞくりとし、ちょうどその時親指の先で乳首を弾かれて背筋が引きつった。
クラークは獣じみた声で低く唸ると、夢中でブルースの唇を求めた。急に体勢が変わったことで反射的に身を引こうとしたブルースの背に腕を回し、反対に引き寄せた。
きれいな弧を描く切れ長の目がやれるものならやってみろと誘いかけている。
怒りに似た慄きが首筋から立ち上ってかっと頬を灼いた気がした。クラークはほとんど睨み返すようにして視線を合わせたまま、相手の胸に手を這わせた。
ずっとこの肌に触れたかった。どこもかしこもいっぺんに。地球人と同じく2本しかない腕がもどかしくてならなかった。
柔毛の間を真横に走る裂傷の痕。皮膚の下で発達した大胸筋の弾力が指を押し返す。
鍛え抜かれた筋肉組織が作り出す自然の凹凸と、その曲線を無粋に断つ傷痕のコントラストを両手と唇で精一杯なぞりながら、クラークはブルースの反応を細部まで拾おうとした。
上昇する体温、色づく皮膚、速まる鼓動。溜息のように密やかな喘ぎ。
唇が下腹を捉え、腰の中心線を辿った指が尻の谷間に差し込まれると、ブルースは背をしならせ、胸が大きく上下した。大きくて硬い掌がクラークの黒髪をかき乱す。
目を上げてみると、ブルースの上気した顔には見たこともない表情が浮かんでいた。クラークは一瞬何もかもを忘れて魅入られたが、それを読み解かぬうちに薄青の瞳が不敵な光を取り戻した。さっと伸ばされた腕がサイドテーブルの小瓶を取り上げる。
滑り気のある液体が顔に腕に降りそそいだ。
「ふむ、なかなかそそる光景だ」
ブルースはどこまで本気なのだか分からない口調で呟いて空の小瓶を放り投げた。
重ねた肌と肌がぬるりと滑り合い、クラークは原始的な嫌悪感と快感の狭間で鳥肌を立てた。眩むような酩酊感が襲ってくる。
「ブルース。ああ、ブルース」
もう耐えられない。もう待てない。
「君が欲しい。今すぐに」
ブルースは低い声で笑った。聞く者を狂わせるような声だった。
液体のお陰で抵抗こそ少なかったが、彼の中は燃えるように熱く、そして狭かった。欲望に急かされるまま押し入ったクラークは、ブルースの喉から漏れるくぐもった呻きを耳にして凍りついた。
無理強いしたり、奪ったりはしたくなかった。できる限り優しく快楽を分かち合いたかった。万が一にも自制を失うことが恐ろしい。彼は驚くほど強い人間だけれど、やはり簡単に傷ついてしまうし、たちどころに傷が癒えたりもしないのだから。
「ブルース……?大丈夫か?」
ブルースは不機嫌に顔を顰めた。
「どうせまたくだらないことを考えているんだろう。おまえが今考えていることは、私が既に結論を出している。だから考えるだけ無駄だ」
「ど、どういう意味……」
内部に強烈な圧迫感を抱えているだろうに、ブルースはそれを無視してクラークの膝の上で姿勢を変え、自ら腰を動かし始めた。
「ブルース……っ、いけな……」
抗議の声は鼻にかかった甘く苦しげな吐息にかき消された。
ああ、また。あの瞳が挑発している。誘いかける。求めている―――きつく眉根を寄せ、呼吸を乱し、異星の強靭な肌に爪を食い込ませて。クラークは吼えた。凄まじい悦楽と愛おしさの嵐が繋がったところから全身へと広がり荒れ狂った。
がむしゃらに突き上げると、ブルースは弓なりに背を反らし白い喉を晒して叫びを上げた。明らかに艶を帯びた嬌声。
ともすれば白く灼きつくされそうになる意識の端を必死に握り締め、クラークはブルースが上げる声の響きを確かめながら身を進めた。
普段の彼は享楽的で鷹揚なプレイボーイと、頑固で厳格な闇の騎士という二つの顔を使い分けているが、後者と接することの多いクラークとしては奔放な反応に少々面食らってもいた。
「こうすると……気持ちいいんだね……そうだろう?」
小声でよく聞こえなかったが、ブルースは何かしら口汚い罵言を吐き捨てた。
「……いいから、少し黙っていろ」
荒々しいキスがクラークの言葉を封じる。
熱い昂まりが腹に押し付けられて脈打っている。
溺れるほどの情熱の中で繋がった身体が融解してゆく。
世界中の、この惑星の、太陽の、宇宙のエネルギーが一点に凝縮し、そして、弾けた。
クラークは腹の底から蒼穹に轟くほどの叫びを上げた、と思った。実際には掠れた喉が喘ぎを漏らしただけだったのかもしれないが。
欲望を手放した身体に重い疲労が襲いかかり、クラークは愛しい人の上にくずおれた。
しばらくは二つの荒れた息遣いだけが部屋を満たしていた。
全身を浸す満足感が睡魔を連れてくる。ゆるゆると落ちかけた瞼を、小さな声が引き戻した。
「……なんだと?」
ぽつりと呟かれた問いには奇妙な戸惑いが含まれていた。
「は……え?」
「何と言った?」
「いつの話だ?」
「さっきだ。最後に」
「僕が?何か言った……かな?」
ブルースの顔つきがみるみる険しくなった。
「覚えていないのか」
そう言われても。
なんだか不吉な予感がして、クラークは頬を引きつらせた。
心身共にどれほど健常な人でも、発言に責任が取れない状況というものは存在する。たとえば眠っているとき、泥酔しているとき、理性が吹き飛ぶほどのセックスをしたとき……クリプトニアンだって、基本的な身体構造は地球人と同じなのだから致し方ないじゃないか。
はっと気づいたときには、強いばねのある長い脚にベッドから蹴り出されていた。床に激突する前に慌てて空中で静止する。
「ブルース!僕が何か変なことを言っ……」
「そこのシャワーを使え。私は隣を使う」
冷徹な声音でぴしりと言い放つと、ブルースは一糸纏わぬまま廊下側のドアに向かっていった。肌には情交の跡が色濃く残り、クラークをいたたまれない気持ちにさせた。
追いかけようとしたクラークを予想していたのか、突きつけられた指が足を止めさせた。
「いいか、先に順番を間違えたのはおまえだ」
「順番って―――」
「ヒントをやろう。3単語だ。思い出さなければこれっきりだ」
ノブに手をかけたまま、ブルースは眉を上げてみせた。
「クラーク。君がどう思おうと、私はそんなに鈍くない」
バタン!と大きな音を立てて扉が閉まった。
それきりうんともすんとも言わない典雅なドアを、クラークは呆然と見つめた。
一体僕がどんな大失敗をやらかしたっていうんだろう?
のろのろと髪をかき上げる。言われたとおりにどうにかシャワーを済ませ、メトロポリスに飛んで帰った。いつもの快活さが微塵も感じられないフラフラとした軌跡を描きながら。
***
ウェイン邸に再び赤と青の嵐が吹き抜けたのは30分後。
「ブルース!思い出した……わけじゃないが分かった!絶対これしかない―――」
異星人が突風と共に無茶なスピードで進入してきたため、地下のEゲートは破損し、照明が割れ、傍の柱を伝うケーブルが切断された。そのことでクラークは嫌味ったらしく苦情を叩きつけられ、修理しに戻る羽目に陥るのだが、それはまだ数分先の話だ。
まずは片付けなければならない問題がある。
太陽のような笑顔で、誇らしげに胸を張って、興奮に息を弾ませた鋼鉄の男がケイヴに舞い降りる。
黒衣の騎士は呆れたように肩を竦めてこう言った。
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